MENU

キャリこれ

未来へつながる仕事-Minecraftを通じて教育の変化を生み出していく(前編)

連載記事

2023.8.25


今月から新連載「未来へつながる仕事」がスタートします!
新連載のきっかけは、記事の企画を出し合う会議で「人間は、10年後20年後、どんな新しい仕事をしているんだろう?」との疑問が複数のメンバーから挙がったことでした。
合わせて、未来の新しい仕事においてどのようなスキルが必要とされ、人々がどのような価値観を大事にしながら働いているのかが気になる、という声もあがりました。
未来予測は難しいものの、1つの方向性として、仮想空間(メタバース)は今後も拡大していくだろうとの話になりました。
仮想空間というと、Meta社のメタバースが有名ですが、仮想空間の先駆けとして「Minecraft(マインクラフト)」の存在も大きいところです。
Minecraftは2023年現在、世界で最も売れているコンピュータゲームであり、プログラミングを学べるとして教育の現場でも活用されはじめています。
今回は、子どもたちがプログラミングやデジタルなものづくりにふれる機会を創出しているMinecraftカップの運営に携わっている栗原咲子さんにインタビュー。
Minecraftの教育的な効果や、地域と連携する新しい教育のあり方などについて伺いました!
※Minecraftや Minecraftカップについてはこちら
■お話を伺った方
栗原咲子さん(Minecraftカップ運営委員会事務局プランニングリーダー)
■インタビュー・記事執筆
海野 千尋(キャリアのこれから研究所メンバー・NPO法人ArrowArrow代表)
■Minecraftとは?
ユーザーが仮想空間の中で自由に動きカスタマイズすることができるサンドボックスゲーム。サンドボックスは日本語で砂場を意味する。まさに砂場で遊ぶかのように自由に創り、壊し、再設計することが可能。遊び方もさまざまで、木・土・石などの素材を立方体の3Dブロックで創って建築物を組み立てたり、さまよい歩いているモブたちと戦ったり、オンラインで友達とつながって共に建築やサバイバルを楽しんだりできる。
2016年より教育版としてMinecraft: Education Editionがスタート。
■Minecraftカップとは?
学校教育の現場で使われている「教育版マインクラフト」を使っての作品を、全国・海外から募集し内容を競い合う大会。個人でもチームでも参加可能。全ての子どもたちにプログラミング教育やデジタルなものづくりに触れられる機会を届けたいとの趣旨で、2019年から始まる。
https://minecraftcup.com/about/

1. 栗原さんがMinecraftカップ運営に携わるまで
元々、デジタル領域と無縁の業界で働いていた 栗原咲子(くりはら さきこ)さん。 どんなきっかけで、Minecraftカップの運営に携わることになったのでしょうか。Minecraftの話の前に、まず栗原さんのキャリアについて伺いました。
―――栗原さんのこれまでのキャリアを教えてください。

取材時、にこやかに答えてくださる栗原さん
栗原さん(以下敬称略):三井化学株式会社という化学メーカーに新卒で入社し、人事・CSR・総務を約5年間担当していました。メーカーの工場なので、24時間3交代で働く方々もいます。そういった方のキャリア支援や、新卒・中途採用、労務管理や社内人事の制度設計をしていました。
また、会社員として働きつつ、ずっとNPOの活動にも携わっていました。
学生の頃、企業、行政、市民等の協働で環境教育に取り組んでいるNPOでインターンシップをしていました。活動主体のつなぎ役であるNPOの立ち位置は自分にしっくりきて楽しい。自身の可能性を広げていけるのではないかと思ったんです。
それからNPO業界に転職し、ご縁があって、このMinecraftカップの運営に携わることになりました。
プライベートでは子ども2人を出産、育児中です。親になったことで、人生に大きな影響があったと感じています。
―――Minecraftに出会ったきっかけは、何だったんですか?
栗原私とMinecraftとの最初の接点は、子どもが「Minecraftをやりたい!」と言い始めたことでした。
実は、2年前、子どもが突然「保育園に行きたくない」と言い始めたんです。私の子どもは、誰かに指示されるより、自分で「こうしたい!」と動いていくタイプなので、まずは子どもの想いを尊重したいと思いました。
しかし、その一方で、このまま学校に行かないとなった時、この子の将来はどうなるのだろうという焦りや不安もありました。家にいる間、彼が一生懸命できることは何だろう…と悩んでいました。
そんな中、子どもがMinecraftに出会い、「やりたい!」と言い出したのです。
彼は、みるみるうちに Minecraftにのめり込んでいき、「将来プログラマーになる」との宣言までとびだしました。また、ロボットやプログラミング分野にも興味を示すようになりました。
そこで、「プログラマーになるためには算数は分かった方がいいし、人と一緒に動くためには会話が必要で国語も必要になるよね」と、私自身の考えを伝えたところ、子ども自身が、学校に行くことや宿題をやることに積極的に取り組み始めたんですね。

取材時の栗原さん
子ども自身の「やりたい!」や「何かを達成したい!」という気持ちの延長線上に、学校で学ぶことがあるんだと、この時思いました。
また、その頃、NPO関係の古い知人から、Minecraftカップの運営に携わってみないかとお誘いいただいたんです。自分の関心のある「人の可能性を広げる」という事業の趣旨に共感してお引き受けすることにし、今に至ります。

2.Minecraftで育まれるもの ~アクティブラーニング~
―――Minecraftを通じて育まれる能力などについて教えてください。
栗原:私の子どもに限らず、Minecraftカップの運営に関わる中で、イキイキ楽しそうに取り組む子どもたちの姿、取り組んだことが自信につながり、ものごとに前向きになっていく姿を多数見てきました。
(※Minecraftの魅力については、次回、Minecraft カップで過去に受賞経験のある秋穂正斗さんへのインタビューでたっぷりご紹介予定です!)

ワークショップに取り組む子どもたちの様子
子どもたちはMinecraftが大好き。だから、Minecraftに関わることに積極的に動いていったり調べていったりします。1つ事例をご紹介します。
<チーム CoderDojo Nagato 「僕たちの長門ワールド」>
応募作品の詳細は、こちら

*MinecraftカップのHPから転載
Minecraft カップの作品テーマは、SDGs(持続可能な開発目標)に関連しているものが多いです。
去年2022年の大会テーマは、「生き物と人と自然がつながる家・まち~生物多様性を守ろう~」。SDGsの14番目「海の豊かさを守ろう」、15番目「陸の豊かさも守ろう」を意識したものでした。
海や山といった自然豊かな山口県長門市。CoderDojo Nagatoの子どもたちは、人間以外の生き物にも暮らしやすい未来のまちを考えることを題材に、地元に生息する生物について、図書館に行ったり、観光パンフレットをもらってきて調べたりしました。
※CoderDojo 7〜17歳を対象とした非営利のプログラミング道場。2011年にアイルランドで始まり、世界では100カ国・2,000の道場、日本には220以上の道場がある。
また、地元の高校生が行っているアクアポニックス(※)のお披露目会も見学に行ったそうです。
※アクアポニックス 水耕栽培と養殖を掛け合わせた、次世代の循環型農業として注目されている。山口県長門市の大津緑洋高校では、飼育が難しいと言われるサーモンの養殖に成功。その他、世界初となる地元名産のトラフグも飼育中。
大好きなMinecraftの世界に、SDGsがどう重なるかを起点に、興味を持ったことを調べ、地域にフィールドワークに出て、調べたことを作品づくりに活かしていく。
「SDGsを学ぼう」といって教わる受動的な学びとは反対の、「能動的な学び=アクティブラーニング」につながりやすいのがMinecraftの特長です。

3.Minecraftで育まれるもの ~それぞれが得意なことを活かし協働する力~
―――Minecraftの1番の魅力はどんなところだと思いますか?
栗原:みんなでバーチャルな世界に入り、とてもフラットな関係性が築けるところです。
“年上がリーダーになるか”といったら、必ずしもそうではないんですね。

Minecraft ワークショップの様子
私は、色々な地域に出かけていって、Minecraftのワークショップを行っていますが、ランダムにチーム編成した場合、小学校高学年の子ではなく、低学年の子がリーダーシップをとる場面も見ることがあります。
様子を見ていると、年齢は関係がなく、各メンバーが得意なことを活かすというチームワークをとっていることが多いですね。
―――なぜそのようなフラットな関係性が構築されるのでしょうか?
栗原Minecraft、ひいてはプログラミングの世界は「正解が1つではない」という前提が大きく影響していると思います。基本的なプログラムの書き方はありますが、「自分の表現したいこと」に向かってどんな風にプログラムを組むかはその人次第、いくつもやり方があります。
東京都調布市のCoderDojoに訪問した時のことです。現役のプログラマーの方が来ていたのですが、子どもたちが一生懸命書いたプログラムに対して「これ、どうやって組んだの?凄い!」と、子どもたちにコードの書き方を聞いていました。
経験値に関係なく、目指す到達点に向かって、「もっとこうしたらよくなる!」とアイデアをシェアし、互いに学び合う姿は非常に印象的でした。

Minecraftの作品例

4.一人ひとりの可能性に挑戦できるMinecraft
栗原:自分の得意なことを活かす、自分のペースで参加できるという利点から、現在、特別支援の現場でMinecraftが導入されるケースも増えてきています。
<北海道網走郡にある津別町立津別中学校 特別支援の取り組み>
https://youtu.be/ZFEeigh7QYs
~映像内容の紹介~
津別中学校 特別支援教諭の門馬先生が出演、生徒たちが授業や余暇活動の時間に、Minecraftに取り組んだことや、Minecraftカップに応募した経験などをお話しされています。
門馬先生によれば、「特別支援とMinecraftは相性がいい」そうです。
その理由の1つ目が、自分のペースで参加できるから。
障がいと言っても一括りにはできず、特性の強弱などもあります。例えば、Minecraftをやっていても、同じ自閉症でも、発想が豊かな子、もくもくと作業をするのが得意な子とさまざまと話されています。
Minecraftは、参加者がそれぞれ自分の特性を活かし、自分のペースで参加できるのが良い点とのこと。
続いて理由の2つ目は、コミュニケーションが苦手でも、それぞれに合った方法で取り組めるから。
Minecraftは、チャット機能があるので、対話コミュニケーションが苦手でも参加しやすい、また、識字障がいのある子でもイマーシブリーダー機能(音声でそのページのテキスト部分を読み上げる機能)があって参加しやすいことなど、Minecraftには特別な配慮が必要な子へのサポートが整っていることもお話しされていました。
―――Minecraftカップの目的である「ひとりひとりの可能性に挑戦する」にもつながるお話しですね。Minecraftについて、「ゲーム」というイメージが強かったのですが、違う側面を沢山教えていただきありがとうございます。

取材時の栗原さん
栗原:Minecraftに代表されるようなバーチャル世界は、私たち大人世代が子どものときには無かったものですよね。保護者の方の中に、どう向き合えばいいか戸惑われている方もいるかもしれません。
でも、保護者が必要以上に払いのけたり頑張りすぎたりするのではなく、もう少し、教育現場や地域・コミュニティの中で、この分野に関心やリテラシーがある人たちと一緒になって関わっていくこともできるのではないかと思います。
Minecraftカップの運営を通じて、そのようなネットワークもつくっていきたいと取り組んでいます。
★後編は、こちら
後編では、地域と連携する教育のあり方などをご紹介します!