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人的資本経営は「社員感情」の細部に宿る(前編)

インタビュー

企業

連載記事

2023.10.12


「人こそが財産、組織は生態系」という本質的な理解と実践が企業に浸透することで、日本企業が世界に範を示し競争力を回復するのか、あるいはその本質が見失われて空洞化と衰退の道を辿るのか・・・人的資本経営という潮流は、その分岐点となるのかもしれない。こうした問題意識に基づき、スタートしたシリーズ「『人的資本経営』は誰のために?」。
第2回は、「人的資本経営」という言葉が流通する以前から長く実践してこられ、好事例として知られるサイバーエージェントの取り組みを取り上げます。先だって同社常務執行役員 CHOの曽山哲人さんをお招きして開催された日本マンパワー社員との勉強会の様子をレポートします。
同氏のご講演に続き、日本マンパワーで人的資本経営プロジェクトのリーダーを務める依田哲司とキャリアのこれから研究所プロデューサー・酒井章氏との対話、そして社員との対話が行われました。社員感情への想像力を徹底的に働かせた施策を事業成長につなげる緻密な戦略が、そこにはありました。

1.サイバーエージェント 常務執行役員CHO 曽山さん
サイバーエージェントの曽山です。まず簡単に自己紹介ですけれども私は人事以外に、YouTuberとして人事部長ソヤマンというのをやっておりまして。2020年のコロナのタイミングで、社員からマネジメントやコミュニケーションに困っているという声があったことから、少しでも力になれればと思い始めました。
また、「サイバーエージェントレジット」というプロダンスチームのオーナーをしています。Dリーグというプロのダンスリーグで、去年はシーズン優勝しました。
さて、本日は大きく三つのお話をさせていただきます。「サイバーエージェントの変遷」、人的資本によって会社の変革と連動させてきた「事業の変革(イノベーション)」、そして一人一人の個性を生かして「自走する仕掛け」です。

2.サイバーエージェントの変遷
本題に入る前に、当社の売り上げをご説明します。
2000年の売り上げは32億円でしたが、2022年では7,000億円を超えました。これまでは基本的に事業も人材も一貫して「内部育成」しています。
しかし、以前は苦労も多かったです。2000年の上場後、退職率30%が続き、組織もギスギスして、役員のビジョンもバラバラな状態がありました。社員にとっても軸が不明確な状態でした。しかし、会社設立5年目(2003年)に経営陣で行った合宿が転換点となりました。
当時は成果を出した人を厚遇する成果主義、個人主義が非常に強かったのですが、「人」を大事にすることを意思決定したんです。中長期で会社を伸ばすためには、中長期で活躍してくれるよう人も大事にすべきだと決めて、長期雇用をあえて打ち出しました。「会社は社員を大事にする」ということを社長の藤田が宣言をしました。
今では、「実力主義型終身雇用」という言葉を使っています。本日は「イノベーション」を起こすうえで大事なことだと考えるポイントを人的マネジメントの観点から、三つご紹介したいと思います。

3.イノベーションのポイント 人的マネジメントの観点から
一つ目は「変化の習慣」です。会社の中で、どれぐらい変化をする習慣があるか、ということです。役員で合宿をする、各部署でロングミーティングやオフサイトミーティングをする、あるいは座席が変わる、部署異動。いろいろあると思います。サイバーエージェントは、単体の社員が3,000人ぐらいいますが、そのうちの大体6割から7割が1年に1回は異動しています。それぐらい変化が非常に激しく、常に何かしら変化している習慣があれば社員は変化に慣れ、会社全体が大きな変革をしたとしてもそれに乗っかってくれる人が増えるということになります。つまり「小さい形での変化を少しずつ生み出していこう」ということです。
二つ目は「リーダー(経営陣)の率先垂範」です。新規事業を提案する会議で、社員にだけ提案させていて経営陣は審査するだけ、というのが私達の失敗経験です。今は新規事業を作るにしても、経営陣の率先垂範があることによって、その部下の部長もやるようになり、そして現場もやるようになる。ボトムアップだけを期待するのではなく、一番上が率先垂範しているかどうかが、すごく重要なポイントです。
三つ目は「敗者復活の事例」です。チャレンジする風土を作るには、敗者復活した人の事例がいくつあるのかが重要です。チャレンジの風土を作ったり失敗を許容する文化を作ったりするために重要なのが「事例」なんです。
「風土」を作りたければ事例を増やす。企業風土を変えるのがいかに大変かというと、メッセージを掲げてたとしても、その時点では事例はゼロだということです。事例を作るまでは言い続けるしかありません。
そのような中で「変化の習慣」「経営の率先垂範」の事例になっているサイバーエージェントの事例として「あした会議」という取り組みについてご紹介します。

4.変化の習慣・リーダーの率先垂範事例 「あした会議」
これは年に1回、役員と社員50人が集まって、チーム対抗で役員会の決議案を持ち寄る会議です。1人の役員と4名の社員でチームをつくり、提案を行います。職種もバラバラ、部署もバラバラ、それによってイノベーションが生まれやすくなります。
仕組みとしては、まず、3分間で社長の藤田にプレゼンを行い、点数がつきます。プレゼン後にブラッシュアップタイプという時間があり、社長の藤田がそれぞれのチームのテーブルを廻って、さっきつけた点数に対して「もっとこうするといいでは」などと議論を行います。
あした会議は2006年からほぼ毎年やっていまして、これによって生まれた会社が30社以上あり、オーガニック(内部育成)での売り上げも3000億円以上あります。

5.個を活かす事例「GEPPO」
ここからは、「個を活かす事例」についてお話をしていきます。私達が「GEPPO」と呼ぶ取り組みで、全社員にコンディションのアンケートを定期的に取っています。
質問は3問で、1問目は「あなたの成果とパフォーマンスを、天気形式にて5段階でつけてください」という質問です。 2問目は毎月変え、会社のミッションや企業風土などについて聞いています。3問目は、キャリアの相談などをフリースペースに書けるという形です。回答内容は上司には絶対に見せません。
こういった主観的な情報、定性的な情報を天気の5項目で聞くことで、快晴だったら5点、土砂降りだったら1点とすれば定量化できます。この「定性情報の定量化」が、人的資本のマネジメントにおいては極めて重要だと考えています。

実際のスコアですが、例えば「(職場内の)関係性はどうですか?」と聞くと79%が「晴れ」(「はい、そうです」)と回答してくれていますし、「挑戦できていますか?」にも72%が晴れをつけてくれています。
こういう形でスコアリングをして、個人の天気を集計すれば、部署毎のスコアも見ることができます。個人と部署そして全社、これを全体で見ることができるので、会社全体の傾向が見えるという形になります。
ここに写っているメンバーが、GEPPOを運営している「キャリアエージェント」と呼ばれる社内ヘッドハンターチームです。GEPPOには毎回、3,000~4,000人が回答してくれて、そのうち500件ぐらいにフリーコメントが書いてあるのですが、全部に返信しています。その上で、その1ヶ月の中で気になる社員に声をかけて面談をして、必要だったら役員人事異動を起案できる権限があります。

6.1人ひとりが自走する強い組織のポイント
次に「1人ひとりが自走する強い組織のポイント」についてお話します。わが社が退職率30%だった時代と現在を比較してまとめたものです。
一つ目は「軸の明文化」です。ビジョンやミッションが明文化されているかどうか、浸透しているかどうかです。
二つ目は「横のつながり」。これは社員同士の関係性です。横のつながりがあると情報の流通が進みます。
そして三つ目は「個人への光」。これは、きちんと褒めたり認めたりすることです。一人一人自分のやり甲斐があるか、ということですし、それを感じてもらうために「褒められているか」がポイントになります。
まず、「軸の明文化」としてパーパス=「新しい力とインターネットで日本の閉塞感を打破する」と規定しています。一緒に日本社会を変えていこう、という思いを盛り込みました。
そしてビジョンとミッションです。ビジョンでは「21世紀を代表する会社を創る」と宣言していますが、右の三点は人的資本に関わるところです。
例えば「能力の高さより一緒に働きたい人を集める」。私たちは、能力が高いだけの人は採用しない、私たちの価値観に合う人を採用しようということを明確に決めています。合う人を採る採用というのは極めて重要です。
「若手の台頭抜擢を喜ぶ」は、終身雇用ではあるけれども、年功序列は禁止で実力主義だということを言っています。
そして、「セカンドチャンス」。弊社は、以前はセカンドチャンスがなく、失敗すると辞める人が多かったのも事実です。この考えを明文化したことで、今はセカンドチャンスがある会社になりました。
「強い組織のポイント」の二つ目は「横の繋がり」です。社員同士はもちろん、役員も社員と普段から食事に行く機会を持っています。
三つ目は「個人への光、表彰」です。毎月、各部署で「締め会」という表彰をやり、半年に1回全社の表彰を実施しています。
一番若手の新人賞から社長賞まで10数賞あって、表彰することで自分のやっていることは正しいんだという、自信をもってもらっています。
私からの事例紹介は以上となります。ご清聴いただきましてありがとうございました。
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