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キャリこれ

人的資本経営は「社員感情」の細部に宿る(後編)

インタビュー

企業

連載記事

2023.10.12


引き続き、曽山さんとの対話の内容をご紹介いたします。
ここからは、この勉強会に参加していた日本マンパワー社員からの質問に、曽山さんに回答していただきました。

あした会議が実を結んでいる理由
Q1:あした会議で新事業のプランがたくさん出て30社の新しい会社ができている、というお話がありましたが、実を結んでいる理由をお伺いできますか?
曽山:
新規事業プランコンテストも別途ありますが、あした会議は何が一番違うかというと、最初の起案時点で役員が入っていることです。すぐ立ち上げるために責任者を決めて異動してもらっています。また、進捗を毎週の役員ミーティングで追っていきます。

社内ヘッドハンターのキャリアエージェントについて
Q2:社内ヘッドハンターのキャリアエージェントは何名の社員で運営されてらっしゃるんですか?
曽山:
現在5人です。その5人の中で1ヶ月でできることだけやればいい、と方針を決めています。20営業日あって1ヶ月で1日2人か3人面談するという基準を決めて、でもそれが無理だったらやらなくていい、という感じです。

収益の花形を回すと同時にチャレンジを続けていくエネルギーの源泉
Q3:新しい事業を見つけることに力をかける一方で、収益の花形で稼ぎをどんどん増やす動きが必要になると思います。収益の花形を回していくと同時にチャレンジを続けていくエネルギーの源泉があればお聞かせください。
曽山:
これは本当に難しいですね。私から申し上げるとすると、もう既存事業を伸ばしながら新基事業を作るという「習慣をつくる」しかないという感じです。それが弊社の場合は変化の習慣=あした会議になるわけです。

「変化に慣れる」ためにやっていること
Q4:異動が1年間で6割というのは本当に変化せざるを得ないような施策だなと思いました。もし異動や配置転換以外に「変化に慣れる」ためにやっていらっしゃることがあれば、ぜひお伺いしたいです。
曽山:
一番効果が大きいのは「違う人と話すこと」です。席替えや、会食などでもそういう機会がありえると思います。いろんな人と話すことでひらめきが生まれることもありますよね。そういった機会や場は極めて重要だなと思っています。

キャッチーでわかりやすい言葉を作るヒント
Q5:インナーコミュニケーションにおいて、キャッチーでわかりやすい言葉を作っていくヒントをお伺いできたらなと思います。
曽山:
新しい制度を作る際、ネーミングは多い時には100個ぐらい考えます。良いネーミングを作る上で最も効果的なのは本を読むことです。ボキャブラリーが増えないと、アイデアを増やすことが難しいのです。どういう感じで議論してるかというと、ある制度をやることが決まったら、担当の人事部5~6人で案を出し合って議論をしています。

発信することでの学習効果
Q6:あるタイミングから曽山さんはすごく発信をされるようになりましたよね。発信をされることによってどのような学習効果がありますか?
曽山:
発信は「他人の脳みそをお借りすることができる」と思っているんですよ。発信に対する反応を通じて、他の人の考えを借りることができます。自分が発信した言葉がどれだけ力があるのかがわかります。

マネージャーが部下と対話するときに工夫すること
Q7:対話の頻度とか質というのがすごく重要だ、というお話をされましたが、これは発信する側だけではなくて受け手側の状況というのをよく理解していないとできないと思います。例えばマネージャーがメンバーと対話するときに、定期的な決まった会議以外で何か工夫したり声掛けしたりするタイミングのようなポイントがあれば教えていただけますか?
曽山:
これは簡単ではないんですよね。上司と部下とか、仲間同士でどう信頼関係ができるかって、お互いの感情に拠ってしまうので。ただ、マネジメント職には、面談を月1ぐらいの頻度でやって欲しい、と言っています。その場合、「面談のスキルを上げようとしなくていい。三つのアジェンダだけ話して」って私は伝えています。
その三つは何かというと、「先月・今月・中長期」。つまり先月の話、今月の話、中長期の話。まず先月の結果はどうだったかを擦り合わせて、良かった点と悪かった点を振り返る。今月、目標達成のためにどういうアクションするかを合意する。中長期の理想像について2-3ヶ月に1回でいいから話しましょう、といったことになります。対話のスキルをあげることも大事ですが、アジェンダをしっかり決めて対話することのほうがより重要です。

全社員へのコンディションのアンケート「GEPPO」について
Q8:GEPPOのところで「上司には絶対に言わないから、正直な気持ちを出して」というお話がありましたが、「上司には言わないから」の意図について教えていただけますか。
曽山:
これは結構シンプルで、上司が1人いるとします。「あなたは上司に100%本音で話せているんですか?」という問いが柱となります。キャリアの形成とか悩み相談においては、相談相手は1人ではなく複数いた方が良いと考えています。「斜めに話せる」ということが非常に重要だということです。実際は、ほとんど上司部下で解決します。
その上で、例えば「介護の状況に自分がなった。それを上司にどう言うべきか、周りにどう言うべきか。迷惑もかけたくない、でも介護もしたい。一度相談に乗ってもらえませんか」という相談が来るんです。直属の上司には言えない場合、斜めの相談相手がいることが大きな安心感を生むので、極めて効果的だと思っています。

「価値観に合う人を採用する」にあたっての採用基準
Q9:「能力よりも、価値観に合う人を採用する」その基準みたいなものがあれば教えていただきたいです。
曽山:
採用基準のようなものがひとつあります。それは「素直でいい人」 “素直さ”は「変化対応力」のことを意味しています。21世紀を代表する会社という当社のビジョンに向けて、柔軟に変化していく考え方が基本となっています。

施策のスピーディな展開と、社員を動かすことの両立
Q10:施策のスピーディな展開と、それに対して社員を動かすことをどのように両立させていらっしゃいますか?
曽山:社員のみんなに新しいことやって動いてもらうのは簡単ではないと思っています。大事にしているのは「一人一人に声をかける」ということです。「一人一人に声をかけるということを絶対にやろう」という思いが常に胸にあって、ただしこれだとお互いに時間コストがかかるので「そうならないようにするために、どうすればみんなに伝わるのか」を一生懸命議論しています。

日本マンパワー会長 田中のコメント
熱気溢れる勉強会は、日本マンパワー・田中稔哉会長によるコメントで締めくくられました。
田中:
今日お話を聞いて、すごく思ったことが二つあります。一つは「経営陣やCHROの責任の重さ」です。経営陣への信頼感がベースにあってはじめて社員の安心感が生まれるのだ、と改めて感じました。
当社がお世話になっている日系の大手企業の皆さんは、変化や失敗を恐れる風土というのは多少なりともあると思っています。でも「安心して失敗しよう」という風土をそうした企業に作っていくことをお手伝いするとしたら、曽山さんが挙げられた三つのポイント=「変化の習慣化」「リーダー(経営層)の率先垂範」「敗者復活の事例」を、改めてわが社の経営陣と話し合って社員にも伝えていかなければいけない、と思いました。
もう一つは、「個人にとってプラスになって会社にとってプラスならば部門に多少の迷惑がかかってもトップダウンで異動する」というお話です。そのレイヤーをひとつ上げてみると、個人にとってプラスで、社会にとってプラスだったら会社が多少迷惑をこうむってでも人を移動させてもいいんじゃないかと思いました。いわば社会全体での人材の最適配置ですね。 そうした考えが、今回の人的資本経営の文脈にあって、少し経営者たちを身構えさせている部分も、ちょっと感じています。しかし、ある種振り切って、個人に寄った考え方をしていくことが必要だと感じています。
曽山:
本日は、皆さんの質問の熱量が非常に高かったので、とても楽しかったです。日本社会が少しでも元気になるように私たちも頑張っていきます。本日はありがとうございました。