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IDGサミット2023参加報告【後編】

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2024.5.24


今回は、2023年10月にスウェーデンで行われたIDGサミットの参加報告後編をお届けします。

※IDGs(インナーデベロップメントゴールズ-内面の成長目標)とは?:
SDGsが提唱する持続可能な開発の実現に向けた、変革的スキルの基本的な枠組みのことです。
https://idgs-jp.net/
記事執筆:
キャリアのこれから研究所所長・株式会社日本マンパワー フェロー
水野みち

1.ダニエル・シーゲル博士による“MWe”
IDGsの5つのカテゴリーの1つに「認知スキル」があります。認知スキルとは、ものごとを認識する範囲や深さ、多様さです。自分自身の思考の偏りに気づいたり、パターンや構造に気づき、意味を見出したりする力なども認知スキルになります。
IDGサミットで、ダニエル・シーゲル博士は、このことを考えるにあたり、そもそも「自分」とはいったい何か?という哲学的な問いから切り出しました。
ダニエル・シーゲル博士について
UCLA医科大学精神科臨床教授。マインドフル・アウェアネス研究所取締役、マインドサイト研究所専務取締役。ハーバード大学医学大学院卒業。
『しあわせ育児の脳科学』(早川書房)、『脳をみる心、心をみる脳』(星和書店)、『子どもの脳を伸ばす「しつけ」』(大和書房)など。パンデミックの中、2022年に「Intraconnected: Mwe (Me + We) As the Integration of Self, Identity, and Belonging」を出版。
「みなさん、ようこそ!」
シーゲル博士の声が会場内に響き渡りますが、ステージにシーゲル博士の姿が見えません。
「ステージにいる私は見えますか?」
その時、会場の一番後ろからシーゲル博士が現れました。私たちの認知は追いつきません。
私も二度見してしまいました。
「Self(自己・自我・主体)とは何でしょうか?」
博士は私たちを深い問いへいざないます。
「シンプルなものはディレクション(方向性)を与えてくれますが、そのシンプルさゆえにディストラクション(認知の歪み)を引き起こすことがあります。」
確かに、考えてみると私たちには登壇者であればステージの上にいるものだという共通認識(先入観)があります。そのため、背後から登場するシーゲル博士を認識するのに時間がかかりました。認知とは不思議なもので、Selfという概念も、シンプルが故に私たちに共通認識や方向性をもたらしてくれると同時に様々な現実認識を歪める可能性があるというのです。
『Self(自己・自我・主体)とは何か?』というシーゲル博士からの問いに対し、会場からは、エゴ、主体、概念、魂、個人を特定するもの、機能、物語、認知、身体の内側…など様々な意見が出ます。
「ありがとう。では、主観的な感覚の中心がSelfであるとしたら、どこからが自己で、どこからが自己ではないのでしょうか?境界線は?現代文化において“自己”と“他者”という言葉はよく使われますが、どこからが自己でどこからが他者なのでしょうか?」
「自殺研究者のエドウィン・S・シュナイドマンは、個人主義文化と、メンタル不調や自殺破壊行動には相関があることを提唱しました。これは何を意味しているのでしょうか?
心は内側にあるものではなく、外側ともつながっています。内側だけが内面ではないのです。私たち人間は、Selfの定義を間違えていたと認めても良い時が来たと思っています。Selfを個々の肉体に収まるものだと考えることは、訂正すべきなのです。」
シーゲル博士は、自己と他者という二元論に異論を唱えます。現代文化や思想、言語が私たちに孤独な自己の概念を生み出していると指摘します。今の私たちはあまりにも分離した自己に囚われていると言います。
「今、自分のSensation(感覚)、 Perception(知覚)、Agency(エージェンシー・主体)を感じてください。自分の身体はもちろんあります。
しかし、それをさらに超えて、自分をこの全体の一部だと感じてください。人々と、自然と、地球と、全体とのつながりを感じてください。」
シーゲル博士は、軽く瞑想的な間を取り、次のように締めくくりました。
「私たちには身体をベースとしたMe(私)はあります。しかし、それ以上に、関係性の中で相互に影響を及ぼし合い、つながり合うMWe(Me+We)という存在なのです。
私たちが共に断絶からつながりへと経験を変容させ、より健康で、より充実した繁栄を高め、さらには地球の幸福を共有できるようになることが大切です。
MWe(Me+We)を感じられることが癒しと統合を生み、IDGsを実現する大切な一歩となります。そして、私たちにはそれが出来るのです。」
シーゲル博士のお話はいかがでしたか?わずか10分程の講演ですが、深く染みる話でした。興味深く感じたのは、私たち日本マンパワーが提供しているキャリアコンサルタント養成講座(CDA対応)も、まさにこの「自分事」というテーマを扱っているからです。
キャリア支援は、相談者が自分の心の中で「他人事」に追いやっていたことを、「自分事」として意識を向けていけるように関わっていくことだとも言えるからです。つまり、切り離されていた自他を統合させていくプロセスなのです。

2.自分事と他人事
ここから少し、心理学で学ぶ心の防衛の考え方や、自分事と他人事の考え方を深めていきたいと思います。シーゲル博士の言う、MWe(Me+We)の考え方をより深く理解するのに役立つのではないかと思えるからです。
人は、自分と深く関わることであっても、それを他人事としてしまうことがあります。他人事とは、無関心さであるだけなく、見ないようにし、自分とは切り離して語るとか、誰かのせいにする、などです。
例えば「会社の方針に納得が行かない」、「上司の態度にがまんできない」、「職場環境に閉そく感を抱いている」、「お客様への対応に疑問を持つようになった」など。これらは他人事に追いやりたくなる不都合な話です。
あの人が悪いから、会社が悪いからと外側のものとして扱い、文句や不満を言ったり、仕方のないことだからと、考えないようにしたりしたくなります。こうすることで、自分のプライドを一時的には維持できます。
もちろん、何でも自分事にすると辛いこともあるため、自分を守るために自他の境界線を保つことは大切なことです。しかし、不思議なことに、人は例え自分の体の一部であっても、明らかに自分のことであっても、「他人事」にしてしまうことがあります。自分の属する場所、負ってしまった身体の傷、自分を許せないような出来事、など。
人が本来持つ成長本能とも言える傾向、すなわち「人間性」は、これを良しとはしないようです。ほっておけない、見過ごせない気持ちが沸き起こり、どこかで自分らしくいられない感覚が起こります。外側に置くことで、自己矛盾が積み重なっていくとも言えます。この違和感は健全な感覚です。なぜなら、私たちは自分と様々なこと(心と身体、自分とあの人、自国と他国、自分と自然、など)がつながっていることを潜在的に分かっているからです。
そこで生じる「揺らぎ」は、他人事に追いやっていたことに目を向け、自分事を広げようとしている心のサインです。キャリアコンサルティングにおいては、自分らしさ・ありたい自分のエネルギーを見つけ、それを支えにしながら、自分事に感じられる世界を拡げるサポートをしていきます。
他人事に追いやってしまえば楽に感じられるかもしれませんが、ほっておけないくらいの影響を感じ始めた時には遅すぎるのが環境や経済、教育の問題の特徴・構造です。また一方で、どこからでも、誰からでも変化を生み出す可能性を持つのがMWe(Me+We)、つまり、つながりのもたらす可能性です。
「自分事」の世界を拡げるべく、孤独で怖くても、諦めずに力を合わせようということを、IDGsのサミットでは強いメッセージとして受け取りました。