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尾形真実哉先生インタビュー(前編)「即戦力なんてありえない!?」―中途社員が活躍できない本当の理由

尾形真実哉先生インタビュー(前編)「即戦力なんてありえない!?」―中途社員が活躍できない本当の理由

インタビュー

個人

連載記事

2026.11.5

厚生労働省の調査によれば、令和6(2024)年に転職で入職した人は約492万人。

新卒で入職した約120万人の4倍以上にのぼり(※)、いまや中途採用は、多くの企業にとって主流の採用形式になっています。

(※厚生労働省「令和6年 雇用動向調査」より)

 

しかしその一方で、「経験があるから大丈夫だろう」という思い込みのまま、十分な受け入れ準備がなく迎え入れる企業が少なくありません。その結果、期待されたはずの中途社員が、なかなか力を発揮できない状態に陥ってしまうケースが後を絶ちません。そうした現場や人事部門は、どのように改善を図っていくべきなのでしょうか。

 

組織適応研究の第一人者であり、中途採用者のオンボーディングに詳しい甲南大学経営学部教授の尾形真実哉先生にお話をうかがいました。

 

取材・構成 石澤 寧(エン・モア合同会社)

中編は下記からご覧いただけます。※別ページに遷移します。

後編は下記からご覧いただけます。※別ページに遷移します。

尾形 真実哉(おがた まみや)先生

甲南大学経営学部教授。明治大学商学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了、博士(経営学)。甲南大学経営学部専任講師、准教授を経て2015年より現職。

専門は組織行動論・経営組織論・経営管理論。2011年、若年看護師の組織適応分析に関する論文で人材育成学会論文賞を受賞。
著書に『組織になじませる力――オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ』(アルク)、『中途採用人材を活かすマネジメント』(生産性出版)など。

1「即戦力」という思い込みの正体

 

「オンボーディング」とは、新しく組織に加わった人をなじませるための取り組み全般を指す言葉です。

中途採用者を受け入れる立場の方にまずお伝えしたいのは、「中途採用者は即戦力だ」と考えないでほしい、ということです。

「社会人経験があるからすぐに仕事ができるだろう」「期待通りのパフォーマンスを発揮してくれるはず」と思っている方も多いのですが、それは誤解です。経験があるからこそ、難しいのです。

 

経験や能力のある人でも、異なる組織や環境になじむまではある程度の時間がかかります。実力のあるプロ野球選手でも、移籍直後のシーズンは思うような結果が出ず、苦しむことが少なくありません。大谷翔平選手のような人は稀です。ほとんどの人は、能力そのものは変わっていないのに、なかなかパフォーマンスを発揮できません。これは、ビジネスの世界でもまったく同じです。

 

ですから私は、「即戦力」という言い方ではなく、「早期戦力化」という言葉を使ってほしいと思っています。

これは、新卒よりは早く戦力になれる、という意味です。そして、早期に戦力化するためには、周囲のサポートが欠かせません。「中途採用者にこそ教育が必要だ」ということを、組織全体で理解していく必要があります。

このことは、色にたとえるとわかりやすいでしょう。

新卒採用者は、いわば真っ白な状態で入社してくるため、自社の色に染める「染色教育」だけで済みます。

しかし中途採用者の場合は、前の会社で染まっている色があります。そのまま染めようとすると、きれいな色にはなりません。真っ白にする必要はありませんが、前の色をいったん緩める「脱色教育」をして、そのうえで自社の色を入れていくという、二つの段階が必要になります。新卒と同じアプローチではうまくいかないのです。

 

新卒採用者と中途採用者の教育の違い 染色教育と脱色教育

 

もう一つ、留意しておかなくてはならないのが、この「色」が、本人の意識にも影響を与える、ということです。

「前の会社での経験があるから」という意識は、新しい職場のルールや知識を学ぶ姿勢を鈍らせてしまう場合があります。また、「自分一人の力で成果を出せる」というプライドや、わからないことを質問したり、周囲に頼ったりすることへの遠慮も足かせになります。その結果、社内に顔見知りや相談相手がなかなかできず、人脈の面でも不利になってしまいます。

 

経験や自信があることは、本来なら強みのはずです。それが、入職直後のなじむ場面ではブレーキとして働いてしまう。

ここに、中途採用者ならではの難しさがあります。

2中途社員を苦しめる「ジレンマ」

中途採用者にとって、最も大きな壁になるのは、社内に人脈がないことです。そうした状態に置かれながら、中途採用者の多くは「早く成果を出さなければ」というプレッシャーを強く感じています。

 

パフォーマンスを発揮するには、周囲との信頼関係や人脈が必要です。

そして、その信頼関係や人脈を築くためには、ある程度の時間がかかります。早い段階で成果を出すことを求められているのに、必要な土台を築くのに時間がかかる。この板挟みの状態を、私は「中途ジレンマ」と呼んでいます。

こうした矛盾した状態を、本人の頑張りだけで乗り越えさせるというのは、少し酷なことではないでしょうか。中途採用者がなるべく早く人脈を築けるように、組織として後押しすることが必要です。

 

実際に、私に調査に協力してくれたあるシステムエンジニアの方は、「技術的なサポートよりも、人間関係にさえ悩まずに済めば、仕事がどれだけ大変でも何とかなる」という趣旨のことをおっしゃっていました。

周囲との関係づくりを、本人任せにしないこと。それが、中途ジレンマから抜け出す、いちばんの支援になると私は思います。

3サポートは、本当に足りていますか

この他にも中途採用者には多くの適応課題があり、そのためのしっかりとした支援を必要としているのに、多くの企業では新卒採用者よりも手薄なサポートしか行われていない、という現状があります。

※中途採用者の適応課題については、書籍「組織になじませる力 ~ オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ」や、日本マンパワーのeラーニングで詳しく紹介しています。

尾形先生の書籍
尾形真実哉氏書籍「組織になじませる力 」
詳細ページはこちら
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尾形先生監修eラーニング
日本マンパワーeラーニング新卒・中途社員をなじませる力
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日本マンパワーeラーニング新卒・中途社員をなじませる力

新卒採用者は、先入観がない分、比較的なじみやすいものです。周囲も、右も左もわからない新人には優しく教えてくれるでしょう。多くの日本企業では、これまで新卒を中心に人材を採用してきましたから、新卒向けのサポート体制は充実しています。

 

一方、中途採用者は、経験があるため、「それほど教えなくても大丈夫だろう」と思われがちです。周囲も「お手並み拝見」という姿勢になりやすく、サポートが欲しくても言い出しづらい環境に置かれてしまいます。本来なら、新卒と同じくらい、あるいはそれ以上に手厚いサポートが必要なはずなのに、実際には逆になっている。残念ながら、このことに気付いている企業はあまり多くありません。

 

これは、長年にわたって新卒採用を中心にしてきた、伝統的な大企業ほど起こりやすいことだと感じています。転職が当たり前になったのは、比較的最近のため、制度や意識が、その変化にまだ追いついていないのです。

 

以前、企業の人事担当者が集まるセミナーで「自社は中途採用者のオンボーディングを十分やっていると思う人は手を挙げてください」とお願いしたところ、手を挙げた人はほとんどいませんでした。社内教育に熱心な会社であっても、中途採用者への対応は、まだ手つかずか、模索中という場合が多いのだと改めて感じました。

4オンボーディングの正しい定義

では中途オンボーディングのポイントに触れる前にここであらためて、そもそも「オンボーディング」とは何か、改めてお伝えしておきたいと思います。オンボーディングとは、組織が新しく入ってきた人をうまくなじませるための、公式な支援・サポート・施策の総称です。この中に、入社式や研修、メンター制度なども含まれます。

 

オンボーディングに必要な要素は、大きく3つあります。

①しっかり情報を提供する「インフォーム」行動

②温かい職場づくりで迎え入れる「ウェルカム」行動

③しっかり導いてあげる「ガイド」行動 です。

これらは、Information・Welcome・Guideの3つの要素の頭文字を取って「IWG行動」と呼ばれます。

 

仕事に必要な情報を渡すことや、歓迎の雰囲気をつくることはもちろん大切ですが、それだけでは足りないのです。

この3つの要素がそろって初めて、オンボーディングは機能するのです。

 

オンボーディングに必要な3要素、員フォーム、ウェルカム、ガイド

以前、ある金融機関の人事部長から、「うちの会社のオンボーディングは、高い給与を払うことです」と言われたことがあります。
先の3つの要素に照らせば、それが誤った認識であることは明らかでしょう。いくら給料が高くても、情報も歓迎も導きもなければ、中途入社の人材はなじむのに苦労してしまいます。

 

よく「オンボーディングと、研修やOJTは何が違うのですか?」と聞かれます。さきほど触れたように、研修やOJTは、オンボーディングという大きな枠組みに含まれる取り組みの一つです。

 

研修やOJT以外にも、オンボーディングに該当することはたくさんあります。

例えば、採用のプロセスの中で、どれだけ情報をすり合わせられているかも、入社後の組織適応を左右する大きな要因です。

 

具体的には、RJP(Realistic Job Preview)と呼ばれる考え方があります(注:直訳すると「現実的な仕事の事前開示」。採用選考の段階で、良い面だけでなく、会社のネガティブな側面や課題も含めて伝えることを指す)。
オンボーディングは、入社前の段階から始まっているのです。

5あなたの会社は、大丈夫ですか?

ここまで、中途採用した人材のオンボーディングの重要性についてお話してきました。自分の会社は大丈夫だろうか、何が足りないのだろうかと気になっている人もいるでしょう。

 

そこで、中途採用者のオンボーディングの取り組み状況を可視化するためのチェックリストを用意しました。以下の内容で当てはまるものが多いほど、足りないもの、やるべき取り組みが多い可能性があります。

【「中途採用者のオンボーディング」チェックリスト】
✅ 中途採用者にも、新卒とまったく同じ内容の研修をそのまま使っている
✅ 中途採用者の適応状態を、入社後も継続的に確認する仕組み(定期面談やアンケートなど)がない
✅ 中途採用者への支援をどういうスケジュールで進めるか、計画や期間の見通しを持っていない
✅ 中途採用者への対応が、特定の上司や現場の熱意任せになっており、会社としての仕組みになっていない
✅ 新卒向けの受け入れ制度と比べて、中途向けに何が不足しているか、具体的に比べたことがない

 

※尾形真実哉先生のインタビューとセミナーの内容をもとに編集部が作成

もし一つでも当てはまるようでしたら、貴社の中途オンボーディングには、見直しの余地があるかもしれません。

大切なのは、中途採用者本人の頑張りに任せきりにしないことです。

「即戦力」という言葉に含まれる先入観に気づき、「経験があるから大丈夫だろう」という、組織側の思い込みを一つずつ見直していくこと。それが、早期戦力化への第一歩になると思います。

 

【次回予告】

では、上司や組織は具体的に何をすればいいのか。次回の「第2回中途社員の活躍は、受け入れ側の動き方次第」では、中途社員を受け入れる際の実践的なアクションについてお伝えします。

●【コラム】 社内人脈の紹介でも、適応度は変わる ~中途採用者の適応についての調査結果から~

以前、ある企業で働く中途採用者360名の方に、入社後の状況を尋ねる調査を行ったことがあります。入社して間もない時期に、上司からどれだけの人を紹介してもらったか、という質問です。

その回答には、明確な傾向が見られました。

 

「上司から誰も紹介されなかった」と答えた人たちは、仕事へのフィット感、会社への愛着、成長実感がすべて低く、転職意思だけが高い傾向を示したのです。

 

回答では、「1〜3人紹介された」という回答が最も多かったのですが、その人たちも、会社になじんだことを示す数値はあまり高くありませんでした。

4〜6人になると、少しずつスコアが上向き、なかでも「10人以上を紹介された」と回答した人たちは、フィット感や愛着が高く、転職意思は低い、という傾向がありました。

 

入社直後にどれだけ人を紹介してもらえるか。

ささいなことに思えるかもしれませんが、そのことだけでも、中途採用者の適応状態はポジティブに変わってくるのです。上司や周囲のメンバーがこのことを意識して、人をつないであげるだけでも、早期戦力化への道筋は大きく変わってくると思います。

中途採用者のオンボーディングのポイント
中途採用者のオンボーディングポイント
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中途採用者のオンボーディングポイント
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