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尾形真実哉先生インタビュー(後編)他社の真似だけでは変わらない理由―オンボーディングを組織の文化にする

尾形真実哉先生インタビュー(後編)他社の真似だけでは変わらない理由―オンボーディングを組織の文化にする

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2026.11.5

「うまくいっている会社をベンチマークにすれば、中途社員のオンボーディングのしくみをラクに作れるのでは」、と考える人もいるでしょう。しかし、どれだけ優れた施策でも、他社の成功事例をそのまま真似するだけでは、うまく機能しません。オンボーディングを組織に根付かせるには、自社の実態と向き合い、仕組みとして育てていく視点が欠かせないからです。

前回は、上司や現場が取り組むべき具体的なサポートについてお伝えしました。最終回となる今回は、個人や現場の努力を、組織の仕組みへと変えていく視点について、引き続き、組織適応研究の第一人者、甲南大学経営学部教授の尾形真実哉先生に伺いました。

 

取材・構成:石澤 寧(エン・モア合同会社)

前編は下記からご覧いただけます。※別ページに遷移します。

中編は下記からご覧いただけます。※別ページに遷移します。

尾形 真実哉(おがた まみや)先生

甲南大学経営学部教授。明治大学商学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了、博士(経営学)。甲南大学経営学部専任講師、准教授を経て2015年より現職。

専門は組織行動論・経営組織論・経営管理論。2011年、若年看護師の組織適応分析に関する論文で人材育成学会論文賞を受賞。
著書に『組織になじませる力――オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ』(アルク)、『中途採用人材を活かすマネジメント』(生産性出版)など。

1「他社の真似」だけでは変わらない理由

中途採用社員のオンボーディングがうまくいっていない企業に共通するのは、自社の課題を正しく捉えられていないことです。多くの企業では、問題があると他社の成功事例を探してそれを真似ようとします。もちろん、真似をして試すこと自体は悪くありません。

ただ、他社にフィットした施策が、自社にもそのまま当てはまるとは限りません。自社の環境や状況に合わせて修正していく必要があります。

 

しかし、解決策をすぐに手に入れることだけにフォーカスすると、自社の課題から目が逸れがちです。本来なら、まずは自社に何が起きているのか、課題を丁寧にすくい上げ、そのうえで解決策を選ぶべきなのに、その順番が逆になってしまっているケースが多いと感じています。

 

他社の施策をあれこれ試してみて、フィットするかどうかを見極めるというやり方も、一つの方法ではあります。ただ、それだけに頼っていると、いつまで経っても自社ならではの課題には向き合えない状態が続くことになるでしょう。遠回りに思えても、まずは自社の実態を見つめることから始めるのが、結局は近道になると私は考えています。

2見えない課題を見える化する

では、自社の課題をどう把握すればいいのでしょうか。私がいつもお話ししているのは、経験や勘、度胸、いわゆるKKDだけに頼らないことです。それらも大切ですが、そこに根拠となるデータが伴っていなければ、判断を誤ってしまいます。

 

しかし、データといっても、データさえあればいいわけではありません。エンゲージメント調査などを行っている会社は多いですが、数字を見て「ここが下がった」と確認するだけで終わってしまうケースも少なくありません。量的な調査と、インタビューなどの質的な調査、その両方を組み合わせることが必要です。それによって、これまではっきりと認識できなかった課題が明確になってくるのです。

 

人事の仕事では「見えないものを見る力」が大切だと、私は感じています。だからこそ、量的な調査と質的な調査を、意識してセットで使うことをお勧めしています。

 

先ほどの「自社の課題と向き合う」という話も、結局はここにつながっています。データという裏付けがあって初めて、自社の実態を正確に語れるようになるからです。データに基づいて自社の課題を把握することは、他社の真似から抜け出すための、いわば土台になるのです。

 

自社課題を把握する量的調査・質的調査

3誰が何を担うのか

中途採用人材のオンボーディングに組織として取り組むには、役割分担も欠かせません。

人事の役割は、オンボーディング施策全体のグランドデザインを描くことです。

 

そのうえで、現場の管理職に、実際の施策を実践してもらいます。日々中途社員と接しているのは現場ですから、施策を血の通ったものにできるかどうかは、現場の動き方にかかっているのです。

 

なかには、人事主導の施策だけでなく、現場が自発的に工夫をこらしている会社もあります。以前に、「うちでは中途入社の社員がみんな生き生き働いているんです」という企業の人事の方にお話を伺ったことがあります。詳しく聞いてみると、人事が働きかけるとともに、現場が「こうやったらなじみやすくなるのではないか」と、自主的な取り組みを積極的に行っているということでした。私はこれを「現場発のオンボーディング」と呼んでおり、理想的な状態だと考えています。

 

とはいえ、現場の自主性は大切であるものの、人事が現場に施策を伝えてあとは任せっきり、ではいけません。「やってください」と言うだけでは、当然現場から不満が出やすくなります。人事は施策について現場に丁寧に説明するだけでなく、その実践に伴走し、現場をしっかりサポートしていく。そうした姿勢があってこそ、中途社員一人ひとりに、実効性のあるオンボーディングを届けられるのだと思います。

4文化として根付かせる、4つの土台

こうした状態を組織全体に広げるには、環境整備が必要です。それには、大きく4つの要素がカギになると私は考えています。

 

(1)職場への働きかけ

一つ目は、「職場への働きかけ」です。今の若手世代は「手取り足取り」の教育を受けてきた場合が多く、ベテラン社員が若手の頃に受けてきたような「背中を見て学べ」式のやり方は、あまり響きません。教育で相手を変えようとする前に、教える側自身の教育観と方法を見つめ直すことが必要です。上司や先輩社員の側の意識と方法をアップデートしてこそ、若手や中途社員を迎え入れる土壌ができるのです。

 

(2)上司を育成上手に育てる

二つ目は、「上司を育成上手に育てること」です。これについては第2回で詳しくお伝えした通りです。

 

(3)トップを巻き込む

三つ目は、「トップを巻き込むこと」です。中途採用人材のオンボーディングがうまくいかないことで生じる様々なマイナス――たとえば、離職率、パフォーマンスの低下、さらなる人材を採用するコスト、といったデータを示し、経営層に危機感を持ってもらう。

 

これが、現場の協力を得る近道にもなります。以前、新卒採用者の教育に社員全員で取り組んでいる企業を調査したことがあるのですが、そこでは社長自身が誰よりも教育の重要性を理解し、研修にも自ら参加して、社員一人ひとりにその大切さを語っていました。経営や人材育成はトップの考え方次第で大きく変わる、ということを実感した出来事でした。

 

(4)会社全体で育成観を共有する

四つ目は、「会社全体で育成観を共有すること」です。オンボーディングについて、部署ごとに独自の工夫があってよいのですが、取り組む部署と取り組まない部署のばらつきをなくし、全社で足並みをそろえることが重要です。会社全体でオンボーディングの重要性を共有することです。

 

オンボーディングを組織全体に広げるための環境整備

5オンボーディングは「入り口」だけではない

少し意外に思われるかもしれませんが、退職時の対応、つまりオフボーディングについても、実は重要な観点です。退職する社員と丁寧な「いい別れ方」ができていれば、それが将来の出戻り社員を生む土台にもなります。

 

実は、中途入社の人材のなかで最も適応に苦しむのは、初めて転職をした人です。転職経験を重ねている人は、環境の変化を経験しているぶん、なじみやすい傾向があります。

そして、中途入社の人材のなかで最もなじみやすいのが、出戻り社員です。既にその会社の文化を知っていて他の社員とのつながりもあり、一度離れて戻ってきたからこそ、会社に対する愛着はむしろ高まっている。そんな出戻り社員が増えるかどうかは、退職時の別れ方に大きな影響を受けます。

 

退職した社員との継続的なつながり、いわゆる「アルムナイ」というネットワークを、会社として維持することも、有効な手段の一つです。社員の退職は終わりではなく、その人との新しい関係が始まる一つの節目だと捉えると、退職時の対応の仕方もおのずと変わってくるはずです。丁寧なオフボーディングは、出戻り社員を生むだけでなく、会社そのものの評判を高めることにもつながっていくと思います。

6オンラインだけでなじむのは難しい

テレワークが珍しくなくなり、中途入社した社員に対してもオンラインでオンボーディングを行う場合もあると思います。しかし、対面であれば自然に解決できることも、オンラインでは思わぬ壁になることがあります。

 

職場にいれば、中途社員はちょっとしたわからないことが出てきた場合、周りに聞いてその場で解決できますが、オンラインではなかなかそれができません。「この程度のことでわざわざオンラインミーティングの時間を作ってもらうのは気が引ける」とためらっているうちに、それが積み重なって、仕事のミスや停滞など、大きな問題として表面化してしまうことがあります。

 

そこで私がおすすめしているのが、オンラインだけでなく、対面で顔を合わせる日を定期的に設けることです。できれば、上司や教育担当者とその社員だけでなく、職場のメンバー全員が集まる日に設定するようにする。大切なのは、その日をただの業務連絡の場にしないことです。何を話すか、どう過ごすかを、上司があらかじめ考えておく。その一手間があるかどうかで、一体感の生まれ方は大きく変わってきます。

 

こうした日をつくる目的は、ただ情報共有をするだけではありません。皆で話し、笑い合うことで、一体感や会社への愛着が生まれます。

テレワークが広がった今だからこそ、こうした心理的なつながりを意識的につくっていく必要があると、私は考えています。

7より効果を発揮するeラーニングの活用法とは

ここまでお伝えしてきた考え方や方法は、人事や現場のリーダー、経営トップが理解し、身につけてもらいたいものです。しかし、それだけではまだ十分ではないと私は考えています。

こうした知識やノウハウは、人事や責任者だけのものに留めるのではなく、組織全体に広げていくことで、より効果を発揮するのです。

 

これらの知識やノウハウを組織全体に広げる手段の一つとして、私はeラーニングも有効に活用できると感じています。

eラーニングを「個人の勉強ツール」では終わらせず、受講した人事の担当者や管理職が、そこで得た知識や方法について、自部門内で話し合ってみる。

 

「うちの職場では、どんな取り組みができるだろうか」とチームで対話をすることで、自分たちの職場に合った形へと落とし込んでいくことができます。この流れがあれば、eラーニングは、知識を身につける手段としてだけでなく、受け入れる側の意識をそろえるための「コミュニケーションツール」としても機能すると思います。

 

それはつまり、学びを人と人とのつながりに変えていく視点を持つ、ということです。近年はAIを活用したオンボーディング支援を導入する企業もあると聞きますが、私は、AIはあくまで補助的な手段として用いるべきだと考えています。すぐ隣に相談できる人がいるのに、AIに話しかけて問題を解決するというのが当たり前になってしまったら、お互いの力を合わせて協力し合える職場になるでしょうか。

 

中途社員のオンボーディングに限らず、教育では人間的な温かさや人間味は大切な要素です。それを大事にする視点を持てば、eラーニングやAIといった道具も、より効果的に活かすことができると思います。

 

中途社員のオンボーディングに向き合うことは、結局のところ、組織全体を元気にすることにつながります。そのための第一歩を、ぜひ踏み出していただきたいと思います。

 


株式会社日本マンパワーでは尾形先生に監修いただいたeラーニングを提供しております。

 

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