経験があるからこそ、「きっと大丈夫だろう」と十分なサポートがもらえず、なかなか力を発揮できなくなってしまう・・・。
前回の第1回の記事では、中途社員が置かれがちな構造とその原因についてみてきました。
では、この傾向を踏まえたうえで、中途社員を受け入れる現場や人事は、オンボーディングとして具体的にどう行動すればいいのでしょうか。前回に引き続き、組織適応研究の第一人者、甲南大学経営学部教授の尾形真実哉先生に具体策を伺いました。
取材・構成:石澤 寧(エン・モア合同会社)
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後編は下記からご覧いただけます。※別ページに遷移します。
1育成の9割を左右するもの
人材育成において、上司の果たす役割が大きい、ということに異論はないと思います。
リーダーシップ開発においては、経験、上司、研修の3つの要素では、7:2:1の比率で影響があるといいます。経験に関わるOJTに上司が関与する場合が多いことを加味すれば、上司の影響は9割に及ぶと考えることもできます。このことは、人材育成においても共通していると考えています。
この数字を、まず上司自身が自覚することが重要です。「自分にそこまでの影響力はない」と思っていると、無意識に育成の優先順位を下げてしまう可能性があります。逆に、自分の関わり方一つで、新しく入ってくる人がなじめるかどうかが大きく変わるのだと自覚することで、日々の接し方は自然と変わってくるはずです。
前回、中途社員が「即戦力」にはなり得ない構造的な理由についてお話ししました。その力を引き出せるかどうかは、中途社員本人の資質以上に、受け入れる側、特に上司の関わり方にかかっている、と私は考えています。
2「育成上手」に共通する3つの条件
では、中途入社の人材をスムーズに組織に迎え入れ、メンバーとしてうまく育てられる上司には、どのような共通点があるのでしょうか。私は現在、「育成がうまい」と評判の管理職、約100人の方にインタビューを行い、その共通点をさぐるリサーチを行っています。そこから見えてきたことがあります。
まず大前提は、その上司が「仕事ができる人」であることです。厳しいようですが、仕事ができない人の言葉には、部下への説得力がありません。ただし、これはあくまで前提条件です。仕事ができるというだけでは、育成上手にはなれません。
では、育成上手な上司に共通する要素は何なのか。見えてきたのが、次の3つです。

(1)場作り上手
一つ目は、「場作り上手であること」です。育成上手な人は、マンツーマンで手取り足取り教えることよりも、「みんなで育てる場」をつくるのに力を入れています。チームの中で勉強会や学び合いの機会を設けて、職場全体で育成する仕組みをつくっているケースが多いのです。
前回お伝えした通り、中途社員にとって最大の壁は社内に人脈がないことでした。一対一の指導だけでなく、こうした「場」があること自体が、中途社員にとっては大きな支えになります。
(2)交わり上手
二つ目は、「交わり上手であること」です。粘り強く、前向きで、コミュニケーションを積極的に取る。いわゆる傾聴力も、この延長線上にあるものだと思います。中途社員は、経験があるからこそ「こんなことを聞くのは……」と遠慮しがちです。だからこそ、上司の側から積極的に働きかける姿勢が、より重要になります。
(3)手抜き上手
三つ目は、「手抜き上手であること」です。一人で抱え込まず、周囲をうまく巻き込んで育成にあたっています。「自分が楽になる」というくらいの感覚で、取り組んでいる方が多い印象です。
中途社員に必要なサポートは、仕事の実務、人脈作り、メンタル面と多岐にわたります。すべてを上司一人で担おうとせず、上手なメンバーに任せることができることも育成上手の条件の一つだといえます。
このほかにも、時には小さな失敗から学ばせたり、答えをすぐに与えるのではなく、本人に考えさせたりするなど、育成上手な上司には共通する行動がありました。こうした指導スタイルが、中途社員のオンボーディングの際にも効果を発揮していると考えられます。
3中途社員に必要な3つのサポート
では、前回お伝えした中途社員へのオンボーディングとして、具体的にどのようなサポートが必要なのでしょうか。私は、大きく3つに整理しています。それは、①人脈作り、②仕事のサポート、そして③メンタルサポートです。
なかでも、もっとも重要なのが人脈作りです。前回お伝えした通り、中途社員にとって最大の壁は、社内に人脈がないことでした。
この人脈作りは、他部署にも影響力を持つ直属の上司の方が主導するのが望ましいと私は考えています。
ここで、人事と現場の役割分担について、私の考えを述べたいと思います。人脈作りのうち、同期のような「ヨコのつながり」をつくるのは集合研修が適しており、その実施は人事の役割です。しかし、実際の仕事を進めるうえで必要になる人脈―つまり、業務遂行の力になってくれる相手とのつながりは、現場でなければつくれません。
残る、仕事のサポートとメンタルサポートにも、それぞれ適任者がいます。
仕事のサポートは、実務に精通した、経験の長い社員が適任です。そしてメンタルサポートは、中途入社の経験がある先輩社員が適任でしょう。新卒からずっとその会社しか知らない社員には、中途で入社した社員が置かれる状況や気持ちがわかりにくい面があるからです。
4いちばん簡単な「最初の一歩」
では、3つのサポートを具体的にどう実践していけばいいのでしょうか。
最初の一歩として私がお勧めしているのは、「声かけ」です。

中途入社の社員が配属されたら、毎日1回でいいので、「何か困っていることはないですか?」「何でも気軽に相談してください」などと声をかける。これを職場のメンバー全員で、1〜2ヶ月ほど続けるだけで、本人は周囲と気軽にコミュニケーションが取れるようになり、社内の人脈も築きやすくなります。金銭的にも時間的にもコストがかからず、それでいて効果は大きい方法です。
ただし、声のかけ過ぎも良くありません。何人もの同僚から、何度も同じような質問を投げかけられたら、それはそれでストレスになってしまうからです。声かけを含めて、良かれと思って頻繁に教育やフィードバックを行うことが、かえって「自分は良い成果を出せていないから、これほど指導されているのかもしれない」と本人に感じさせてしまうこともあるのです。
私はこれを「サポート・パラドクス」と呼んでいます。
中途社員にとっては、声かけも、サポートも、多ければ多いほどいいわけではなく、サポートと自律性のバランスが大事という点は、心に留めておいていただきたいと思います。
5アンラーニングは早い段階で
前回、中途社員には「脱色教育」、つまり、それまでの色をいったん緩める教育が必要だとお伝えしました。これを早い段階で行うことも大切な施策の一つです。いわゆる「アンラーニング」です。
アンラーニングがうまくいかない中途社員に共通するのは、実は本人の意志の弱さではありません。組織から十分なサポートを得られていないことが、最大の原因です。人脈もなく、新しい仕事のやり方もわからないままでは、頼れるものは過去のやり方しかなくなってしまいます。
だからこそ、組織が人脈作りや仕事のサポートをすることが、結果としてアンラーニングを後押しすることにつながるのです。
その具体的な方法の一つが、人脈作りのための研修です。中途社員は同期という存在を求める傾向があるため、ヨコのつながりをつくれる場を用意するとよいでしょう。
アンラーニング研修で実践しやすいのが、「先輩社員の経験談による学び」です。中途入社でありながら活躍している先輩社員は、脱色をうまく行えた人物である可能性が高いでしょう。そうした先輩社員に自身の経験を語ってもらう機会を設け、それをもとにディスカッションする場をつくる。こうした取り組みは、できるだけ早い段階で行うことをおすすめします。
6もちろん本人が取り組むべきこともある
ここまで、受け入れる側にできることを中心にお話ししてきました。最後に、中途入社の社員本人にできることにも、少しだけ触れておきます。
組織になじむためには、本人が主体的に働きかける行動(プロアクティブ行動)も重要です。自分自身の学びを深めたり、周囲との関係を積極的に築いたり、自分の仕事のやり方を工夫したりすれば、なじみやすさは変わってくるでしょう。ただ、これらの行動が生きてくるには、やはり受け入れる側の関わりが必要だと私は考えています。
特別な予算や仕組みがなくても、オンボーディングとして受け入れる側にできることはたくさんあります。大切なのは、中途入社の社員の活躍を、本人の頑張りだけに委ねないことだと、私は思っています。
【次回予告】
個人や現場の努力を、組織としての仕組みにするにはどうすればいいのか。
次回の「第3回 他社の真似だけでは変わらない――オンボーディングを組織の文化にする」では、環境整備の視点からお伝えします。
●【コラム】 育成上手なマネージャーの増やし方 ~管理職約100人のインタビューからわかったこと~
今回とりあげた育成上手な上司は、どのような経験を経て育ってきたのでしょうか。
冒頭でご紹介したように、私は現在育成上手と言われる管理職約100人の方にインタビュー調査を行っています。この調査を通じて見えてきた育成上手に影響を及ぼした経験が2つあります。
1つ目は、人事部門の経験です。組織の立場で人の育成や教育について携わった経験は、後に「育成力」の土台になったという声を多く聞きました。
2つ目が、メンター経験です。若手の指導役を早い段階で経験したことで、育成の難しさとやりがいを、身をもって知ることができた、という声も多く聞かれました。メンター制度というと「メンティーのための制度」と捉えられがちですが、メンター自身の育成力を高める制度にもなるように工夫することが有意義です。
より人事の目線でつけ加えるなら、早い段階で「育成上手になり得る人材」を見極めて、意図的な配置転換や異動を行うことも効果的でしょう。多様な上司や同僚、顧客と接する経験を積むことで、良いロールモデルにも、時には反面教師にも出会う機会が増えます。同じ配慮は、新しく入ってくる人をどの上司のもとに配属するかを考えるときにも当てはまります。
尾形真実哉先生インタビュー(前編)「即戦力なんてありえない!?」―中途社員が活躍できない本当の理由
前編記事はこちら
尾形真実哉先生インタビュー(後編)他社の真似だけでは変わらない理由―オンボーディングを組織の文化にする
後編記事はこちらエン・モア合同会社代表。編集者/ライター。ビジネス誌のインタビューを中心に幅広いテーマの記事を執筆。
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