前回、NCDA(全米キャリア開発協会)の2021年グローバルカンファレンスについてご紹介したところ、たくさんの反響を頂きました。情報の橋渡しができる幸せを感じています。たくさんのプレゼンの中、個人的には「Focusing on Values and Calling with Gen Z Students」というセッションがとても興味深かったので、今回はこちらをご紹介します。
みなさん、GenZ(GenerationZ、ジェンジー)という言葉をご存じですか?日本では「Z世代」と呼ばれています。厳密な定義はないものの、おおむね1990年代半ば~2010年代前半生まれ(現在中学生から20代半ばくらい)を示す世代名称です。生粋のデジタルネイティブであるZ世代は、幼い頃からインターネットに慣れ親しみ、ソーシャルネットワーク、モバイルシステムが日常です。アメリカでは、次なる大量消費世代として注目を集めています。
本セッションは、このZ世代のキャリア意識の傾向やコロナ禍における変化、キャリア支援者としての関わり方について取り上げていました。
Z世代と言えば、オリンピックでも10代メダリストの活躍が印象的でした。中でも、10代のスケートボード選手達が互いに他国の選手を応援し、技が決まったことを共に喜び合う姿は競技場面では珍しく、ニュースにもなりました。スケボー文化もあるようですが、Z世代的傾向もあるようです。努力家でもあり、軽やかで、超越観もある、どこか捉えどころのないような、そんな彼・彼女らの世代へのキャリア支援には、何が求められているのでしょうか?一緒に深めるために、セッションをご紹介します(読みやすさのために意訳・要約も入っていることをご了承ください)。
●プレゼンテーション名「Focusing on Values and Calling with Gen Z Students」
発表者(以下プレゼンター):Breanna Carlos、Stephanie Colvin、Tracy Maughan、Garrett Nilsson 、Brigham Young University Idahoのキャリアカウンセラー・支援者。
発表者(以下プレゼンター):Breanna Carlos、Stephanie Colvin、Tracy Maughan、Garrett Nilsson 、Brigham Young University Idahoのキャリアカウンセラー・支援者。
Z世代の特徴とは?
最初にZ世代の輪郭を理解する上で、マッキンゼーレポートをご紹介します。
Generation Z characteristics and its implications for companies | McKinsey
(2018年11月の記事より)
Generation Z characteristics and its implications for companies | McKinsey
(2018年11月の記事より)
本レポートによると、この世代は「真実を探求する」という傾向があるそうです。Z世代は、個々人の自己表現を尊重し、レッテルや分類を避けます。様々な理由で行動を起こしますが、ユニークであること、実体験に基づくものを重視します。Z世代は、争いを解決し、世界を改善するためには、「対話」こそが有効であることを深く信じています。
また、彼・彼女らは分析的で実用的な方法で意思決定を行います。組織との関係性も実用性を求めます。世界的な不況・リーマンショックで苦しんだ親世代を見て育ったZ世代の金銭感覚は堅実で、表面的なPRには懐疑的で、倫理的消費を好みます。
一方で、真に必要だと思うものには惜しみません。それゆえに “True Gen (本物志向・真実の探求者)”と名付けられたようです。比較対象として前世代のミレニアル世代(Y世代)は、「ミー・ジェネレーション」と呼ばれるように、「自分self」を重視する傾向があるそうです。Z世代よりも、ミレニアル世代は自己中心的で理想主義、対決的だと言われています。いかがでしょうか?もちろん個々人はそれぞれユニークなのであくまでも傾向ですが、興味深い内容です。
Z世代は「アイデンティティ・ノマド」
では、キャリア支援者の目から見るとZ世代はどう映るのでしょうか?
セッションのプレゼンターたちはこう表現します。
セッションのプレゼンターたちはこう表現します。
「Z世代は、マッキンゼーレポートにあるように、キャリアにおいても“真実とアイデンティティ”をより大切にしています。自分や他者をどこかの狭いカテゴリーに入れたくないと感じているようです。いわゆるアイデンティティ・ノマドです。キャリアを考える際には、すべての情報やデータを目の前に広げてから選択したい。デジタルネイティブとして、キャリア情報を収集・分析する力は高い。一方で、選択が難しいと感じている学生は多いようです。それは、アイデンティティが不透明だからです。しかし、それは従来の感覚とは異なり、より深く自身の世界を探索したい探求心から来るものだと言えます。」とプレゼンターの一人、キャリアカウンセラーのGarrett Nilsson氏は言います。
ノマドとは、ノマドワーカーなどでも使われるように、遊牧民という意味があります。つまり、アイデンティティ・ノマドとは、固定された自己ではなく、いくつかのアイデンティティ(自己を規定するもの:職業、年代、性別、人種、民族、宗教など)とは接点を持ちつつ自由に行き来するという意味を持ちます。
アイデンティティの危機やモラトリアムとは異なり、あえて色々なアイデンティティを自由に行き来する解放感を持ち続けたいという意志が内包されているようです。
アイデンティティの危機やモラトリアムとは異なり、あえて色々なアイデンティティを自由に行き来する解放感を持ち続けたいという意志が内包されているようです。
Z世代のキャリア意識
「私たちが捉えたZ世代の特徴は、自分が、というよりも、家族のため、社会のためという意識を強く持つという点です。非営利団体など、大変で低収入でも自分にとって意義のある職場で働きたいと考えます。また、自分の深い部分とのつながり(グラウンディング)を大切だと感じているようです。
目的・パーパスは何か?なぜ私はこれをやるのか?誰のためにやるのか?などへの関心が強い。これは私たちが予期しなかったことかもしれません。パッション、パーパス、コーリング(天職・衝動)、スピリチュアルギフト、などの言葉がZ世代には価値を持つようになってきているのです。What(何を)よりも、Why(何のために)についての関心が高いのです。」
目的・パーパスは何か?なぜ私はこれをやるのか?誰のためにやるのか?などへの関心が強い。これは私たちが予期しなかったことかもしれません。パッション、パーパス、コーリング(天職・衝動)、スピリチュアルギフト、などの言葉がZ世代には価値を持つようになってきているのです。What(何を)よりも、Why(何のために)についての関心が高いのです。」
キャリアカウンセラーは、職業選択という狭い範囲でキャリアを支援するのではなく、より大局的な視点から、ホリスティックなアプローチを取ると効果的だとのことでした。
例えば、価値観カードなど、自分自身を深く探索するようなツールや、ナラティブアプローチなどです。価値観は、個々人の強みと見なします。ナラティブアプローチとしては、自分にとって意義深く感じた経験をいくつか選んでもらい、出来る限り掲げていきます。地図のように経験を出し切った後、そこにあるパターンやテーマを見つけるというセッションです。
「私たちは、振り返りを大切にしますが、同時に行動促進も大切にしています。なぜなら、行動こそが人生と積極的にかかわる方法だからです。」
キャリア探求のための問いやキーワード
プレゼンターが示す、キャリア探求のための問いやキーワードも大変ユニークでした。「私のタレントやギフトは何か?」、「私の選択肢は?」などを「パッション(情熱)」や「可能性」の切り口から探求します。
「ギフト」という言葉は、特殊な才能と思われがちですが、ニュアンスとしては「与えられた個性」に近い意味で使われていました。人と比べて凸凹があっても、それこそが自分に与えられたギフトとして見ます。
「パッション」は、大げさに捉えずに、自然と心が惹かれるものは何か?という切り口から探します。
そして、「何に貢献したいのか?」「どんな課題をほっておけないと感じるか?」「どこで役立ちたいのか?」などを「パーパス」や「場所」から考える。これは、自分に影響を与えた経験からヒントを得ます。
「ギフト」という言葉は、特殊な才能と思われがちですが、ニュアンスとしては「与えられた個性」に近い意味で使われていました。人と比べて凸凹があっても、それこそが自分に与えられたギフトとして見ます。
「パッション」は、大げさに捉えずに、自然と心が惹かれるものは何か?という切り口から探します。
そして、「何に貢献したいのか?」「どんな課題をほっておけないと感じるか?」「どこで役立ちたいのか?」などを「パーパス」や「場所」から考える。これは、自分に影響を与えた経験からヒントを得ます。
こうして「仕事世界」と「アイデンティティ」の両面への自覚を高め、キャリアやコーリング(天職・衝動)を探求するというのです。コーリングには、お告げのような意味もあります。喪失体験や葛藤体験も、コーリングにつながっていきます。
コーリングをどうやって見つけるか?次の3つの側面があるそうです。
①ユニークなギフトから見つけるコーリング
②人生において務めるよう課せられたものとしてのコーリング
③自ら選ぶのではなく、解き明かされるものとしてのコーリング
参照書籍:“Zookeeper’s Secret” by Jeffery A. Thompson and J. Stuart Bunderson (2018)
②人生において務めるよう課せられたものとしてのコーリング
③自ら選ぶのではなく、解き明かされるものとしてのコーリング
参照書籍:“Zookeeper’s Secret” by Jeffery A. Thompson and J. Stuart Bunderson (2018)
「Z世代にとってキャリアは、自分の人生における役割に開かれていくもの、コーリングが自分を見つけるという感覚なのです」という言葉が印象的でした。コーリングというのはキリスト教徒の多い地域ならではの使用言語ですが、東洋で言うところの、「天命」や「魂に与えられた役割」にあたるのかもしれません。
Z世代へのパンデミックの影響
プレゼンターは、こんなコメントも残していました。「改めてコロナによる世界的なパンデミックは、この世代の象徴的な出来事です。すでに変化は起きつつありましたが、パンデミックはZ世代のルールブックを完全に変えました。Z世代も、不確実性を前に当然不安を抱えています。しかし、パーパスを軸に生きようとする彼・彼女らは、変化に右往左往することなく経験を受け入れていて、私たちの世代よりもずっと上手に人生を生きていると感じます。」
みなさんは、今回の内容を読んでどのような感想を持ちましたか?また、みなさんの周りのZ世代の傾向はいかがですか?
コーリングと聞くと、宗教的な、運命論的な、ふわっとした印象を持つ方もいるかもしれません。
しかし、私自身は、今回少し質の違うものを感じました。Z世代は情報を豊富に備えた現実的な世代です。そんなZ世代がなぜコーリングの感覚を大切にするのか?不確実で不透明で変動性の高い世の中を生きている感覚が誰よりも強いZ世代です。
しかし、私自身は、今回少し質の違うものを感じました。Z世代は情報を豊富に備えた現実的な世代です。そんなZ世代がなぜコーリングの感覚を大切にするのか?不確実で不透明で変動性の高い世の中を生きている感覚が誰よりも強いZ世代です。
複雑な構造の中、目まぐるしく移り行く世の中の流れや渦の中、自分の役割を見つけていく。ただ流されるのではなく、パッションとパーパスでかじ取りをし、偶然の波をつかみ、縁や意味に変えていく。それをコーリングと呼ぶならば、それは、もしかすると今の時代の現実的なキャリアの捉え方なのかもしれません。
また、情報は集めるものというよりも、タグ付けしてつながりあうための手段と捉えるという世代の特徴からも、開かれたアイデンティティや動的なつながり合いの中で、新しいキャリア観が育っているのかもしれません。キャリア支援者として、Z世代の視点から学べることはまだまだたくさんありそうです。
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水野みち プロフィール
キャリこれ研究所所長、株式会社日本マンパワー フェロー
NPO日本キャリア開発協会認定スーパーバイザー、ACCN理事、厚生労働省委託事業「SV検討委員会」委員。
【経歴】国際基督教大学卒業。1999年より日本マンパワーでキャリアカウンセラーの養成事業に参画。JCDAの立ち上げ、キャリアコンサルタント養成講座プログラム開発・テキスト執筆、普及推進に携わる。
2005年に米国で最も充実したキャリアセンターを持つペンシルバニア州立大学にて教育学修士(カウンセラー教育)取得。現在は企業内のキャリアカウンセリング、キャリア開発、組織開発、企業内キャリア支援のスーパービジョンに従事。
NPO日本キャリア開発協会認定スーパーバイザー、ACCN理事、厚生労働省委託事業「SV検討委員会」委員。
【経歴】国際基督教大学卒業。1999年より日本マンパワーでキャリアカウンセラーの養成事業に参画。JCDAの立ち上げ、キャリアコンサルタント養成講座プログラム開発・テキスト執筆、普及推進に携わる。
2005年に米国で最も充実したキャリアセンターを持つペンシルバニア州立大学にて教育学修士(カウンセラー教育)取得。現在は企業内のキャリアカウンセリング、キャリア開発、組織開発、企業内キャリア支援のスーパービジョンに従事。
国家資格キャリアコンサルタント/CDA、MBTI認定ユーザー、組織開発ファシリテーター、産業カウンセラー、Dr.Robert Keganによる認定ITCファシリテーター。
■過去の「~キャリこれ所長よりみなさまへ~」
■vol5 「全米キャリア開発協会 グローバル・カンファレンス2021について」 こちら
■vol4 「一人ひとりの成長を地球規模で考える」 こちら
■vol3 「新しいことへのチャレンジ ~アウェアネスの高まりやアートがもたらしてくれるもの~」 こちら
■vol.2「1月15日設立記念イベントのキーメッセージ&研究会に向けて (後編) 」こちら
■vol.1「1月15日設立記念イベントのキーメッセージ&研究会に向けて (前編) 」こちら
キャリアのこれから研究所・所長、日本マンパワー・フェロー、JCDA認定スーパーバイザー、CDAインストラクター、
趣味:物語づくり、いろんな人と会っておしゃべりすること
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