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キャリこれ

(前編)遊ぶ、学ぶ、働くをシームレスに! AI開発に携わる 高校3年生・秋穂さんインタビュー

インタビュー

個人

連載記事

2023.11.8


連載「未来へつながる仕事」。
「技術革新の目覚ましい現代、10年後20年後、どんな新しい仕事が生まれているのか?」
「未来の仕事で必要なスキルや、働く人たちが大事にしている価値観は?」
こういった疑問に、最先端の世界にいる人へのインタビューで迫ろうとする連載です。
今回は、10歳でマインクラフトゲームに出会ったことをきっかけに、デジタルテクノロジー分野の学びを深め、現在AI開発にも携わっている秋穂さんにインタビューしました!

秋穂正斗さん プロフィール

福岡県春日市在住、N高等学校3年生、18歳。10歳でMinecraftに出会い、プログラミングを始める。2016年、CoderDojo久留米に参加し始める。
2019年、中学2年時、Minecraftカップで、物人賞を受賞。
2021年、未経験からプログラミングを独学。CoderDojo春日を立ち上げ、DojoConのセッション登壇。
2022年、AI開発を独学でスタート。
2023年前期、Minecraftカップサイトで、技術記事の執筆に協力。
2023年後期、福岡未踏のProに個人開発者として採択。

●インタビュアー:NPO法人ArrowArrow代表 海野千尋
株式会社日本マンパワー 水野みち・緒方雪絵
●記事執筆:海野千尋・緒方雪絵

1.Minecraftとの出会いが、デジタルテクノロジー分野を学ぶきっかけ
●秋穂さんについて
海野:今回、Minecraftカップ運営事務局 栗原さんのご紹介により、秋穂さんへの取材が実現しました。このような機会をいただき感謝しています。
第1回目連載 栗原さんの記事は、こちら
まずは、秋穂さんに、自己紹介をお願いしてもいいですか。
秋穂さん(以下、敬称略):今、高校3年で、N高等学校というオンラインの学校で学んでいます。普段はプログラミングで、AIやWebアプリ、ゲームを作っています。最近流行っているChatGPTやLLM(大規模言語モデル Large Language Models)や画像認識AIなどの研究開発もしています。
また、ボランティアや仕事で、プログラミングを子どもに教えています。
最近の趣味は筋トレ、カラオケも好きです!
●Minecraftとの出会いから、デジタルテクノロジー分野の学びへ
海野:秋穂さんの年齢で、プログラミングを仕事にもされていると聞いて、ちょっとびっくりしています。秋穂さんが、デジタルテクノロジーの世界に出会ったきっかけを教えてください。
秋穂:元々、幼稚園の頃は、ロボットが好きでした。足が8本・16本あるような昆虫型ロボットが崖を登っていく動画を母が幼い頃見せてくれたのですが、すごいな!と思った記憶があります。当時から「動くもの」に興味があって、例えば、街中での自動販売機などに興味をもっていました。
その後、10歳(小学校5年生)の頃、Minecraftのゲームに出会いました。
■Minecraftとは?
Minecraftは2023年現在、世界で最も売れているコンピュータゲーム
ユーザーが仮想空間の中で自由に動きカスタマイズすることができるサンドボックスゲーム。
サンドボックスは日本語で砂場という意味。まさに砂場で遊ぶかのように自由に創り、壊し、再設計することが可能。遊び方はさまざま。
木・土・石などの素材を立方体の3Dブロックで創り、自由に建築物を組み立てる「クリエイティブモード」、オンラインで友達とつながり、さまようモブたちと戦う「サバイバルモード」などがある。
【マインクラフトで作ったワールドの例】
秋穂さんを含むCoderDojo久留米チームで作ったもの リンクはこちら
秋穂:Minecraftは、デザインやサウンドの良さ、考え抜かれた世界観など、最高のコンテンツとして登場。サンドボックス型ゲームの中で大変人気があり、自分もドハマリしました。学校から帰ってきたらすぐにMinecraft。土日も全部つぶしてプレイしたりしていました。
また、Minecraftのバックエンドシステムや設計に、すごく興味をもちました。
その頃、学校で、Scratch(スクラッチ:物語、ゲーム、アニメーションを作ることができる子ども向けコーディングツール&コミュニティ)をやっていたので、Minecraftも自分で作ってみたいなと。
中学生になり、パソコンを持つと、さらにのめりこみました。
MinecraftはMODという改造ツールを使って、新しい世界・アイテムを追加できます。その際、Minecraftを動かしているプログラミング言語Javaや、OS(基本ソフトウェア)について理解しておくと、さらに良いものができるのです。
Minecraftというゲームを通じて「わからない!調べたい!」と思うことが発生し、必要な手段やスキルが徐々に増えていきました。
高校生になってからは、テキストコーディングも触るようになり、Python(※)を含めたさまざまな言語を使い始めて、今に至っています。
※人工知能や機械学習の開発にも使われる汎用的なプログラミング言語

2.Minecraftの面白さ
海野:秋穂さんは、Minecraftのどこに面白さを感じたんですか?
秋穂:いくつも魅力があります。
1つめは、Minecraftで、人類の進化そのものが体験できる点です。例えば、人類は、炎を見つけて使い方を獲得し、敵と戦うために武器を木から石や鉄に変化させてきましたよね。
Minecraftは、現実世界と構成要素や物理法則が似ています。だから、ワールドに入ったら、まずは道具の素材を入手するところから始まります。例えば、木の枝を折って棒にしたり、その後、石と組み合わせて石の斧にしたり。道具を進化させ、例えば鉄器に変えると、鉄は硬いので地面を掘るスピードがぐんとあがったりするんですね。
また、ダイヤを手に入れようと思っても、簡単には手に入りません。
ダイヤモンドは、大昔、地球の奥深くにある溶岩の中でできたと考えられています。
Minecraftの世界でも、天然のダイヤモンドを入手しようと思ったら、マグマのあるような深い場所に探索に行ったり、その地層まで採掘したりする必要があるんですね。危険もあります。
こういうプロセスを体験していると、人間の進化の歴史をMinecraft内で繰り返しているような気持ちになります。「より良くしたい」「進化したい」という人間の本能のようなものがぐっと掻き立てられます!
2つめは、サンドボックス型ゲームである点です。Minecraftは自分の好きな建築物がなんでも作れます。砂場のように、1回作って、壊して、また作り直してと何回でも作り直せるんですね。RPG(ロールプレイングゲーム)での積み上げとはまた違う自由さ・面白さがあります。
先ほど、昔ロボットが好きだったという話をしました。ただ、ロボットって作るのにすごくお金がかかるし、やり直したいと思ったら分解しないといけない。でも、デジタルの世界だったら、やり直しは簡単。何度でもトライできる自由さは大きな魅力です。
3つめは、制限があるからこそ、工夫しがいがある点です。
現実世界には原子・分子といった物質単位がありますが、Minecraftでは1ブロックが最小単位です。1ブロックより小さいものは作れません。そのため、例えば球体を作ろうと思ったら、ブロックを組み合わせて大きいものを作るしかない。
でも、こういった制限があるからこそ「どうしようかな?」という工夫も生まれます。
サッカーだって、手が使えない制限があるからこそ面白いと思うんです。同じように、ブロックが最小単位といった制限があるからこそ、例えば、物をスイッチで動かすしかけ「レッドストーン回路(電子回路)」を作る時、建物内にどこまでコンパクトにまとめられるか」などといった創意工夫が生まれると思うんです。

3.Minecraftカップでの受賞
海野:Minecraftの面白さ、のめりこんでいったご様子、伝わってきました!秋穂さんは、2019Minecraftカップで「物人賞」を受賞されていますよね。
大会出場の経緯などを教えてください。
【受賞作品】「スポーツ施設のある僕・私の街」リンクはこちら
秋穂:通っていたCoderDojo久留米(※)のチャンピオンの方に誘われたのがきっかけです。チャンピオンの娘さんや同級生と出てみないかということで、3人チームで出場しました。
※CoderDojo 7〜17歳を対象とした非営利のプログラミング道場。2011年にアイルランドで始まり、世界では100カ国・2,000の道場、日本には220以上の道場がある。
海野:作品が評価を受けた理由は覚えていますか?
秋穂:実は、受賞するとは思っていませんでした(笑)。大会のテーマである「スポーツタウン」にあまり関係のないもの、足し算ができる電卓や、ランダムにサイコロの目が出る回路も作っていたので。
その頃、ものを動かせるレッドストーン回路(電子回路)にはまっていたんです。
でも少人数のチームだったことや、レッドストーン回路なども、もしかしたら面白がって評価してもらえたのかもしれません。
【補足】筆者も、秋穂さんチームの制作した作品動画を拝見しました。レッドストーン回路がふんだんに使われていて見ごたえがあります。例えば、ボーリング場。ボタンを押すとピンが並び、ボールを投げるとピンが倒れる仕組みが作られています。街の噴水には、隠し部屋の仕掛けが…。ぜひ一度ご覧ください!

4.人との出会いに恵まれたCoderDojo
秋穂さんが立ち上げたCoderDojo春日の様子
海野:秋穂さんとCoderDojo久留米の関わりについて、もっと教えてください。
秋穂:福岡県で初期にCoderDojoができたのが久留米です。偶然、開設のタイミングで知り、2回目から参加しています。現在まで毎月参加しています。
CoderDojo久留米の管理人は、Web開発をしているゴリゴリの現役プログラマーです。とても尊敬しています!
CoderDojoは、初めの数回は、なかなか人が集まらなかったのですが、だんだんと参加者が増え、今では僕より年上の人も年下の人もたくさんいます。教わる立場だけでなく、「メンター」という教える役割も担当しています。
また、イノベーションワークショップも開催され、Minecraft界で有名なタツナミシュウイチさんが講師を担当するワークショップにも参加できました。
そこでMinecraftカップの運営事務局の方々にお会いしたことがきっかけで、光栄なことに「Minecraftの技術記事を書きませんか?」とお声がけいただきました。
●秋穂さんが書いた技術記事「NPCの使い方」 リンクはこちら
僕にとって、CoderDojoはプログラミングを学ぶだけでなく、人との出会いを創っていった場所でもあります!

5.Minecraftを通じて身についたスキル・経験
水野:私の子どもは、今、小学校高学年です。親同士で話していると、ゲームをやらせるかどうか、時間制限をした方がいいかなど、色々な議論があります。
Minecraftやパソコンをずっと触ってきた秋穂さんに、ゲームをする子どもを、親がどう見守ったらよいか、アドバイスをもらえませんか。
秋穂:自分は親ではないので、恐れ多いんですが…。1つだけお伝えするとしたら、子ども達に、パソコン、ゲーム、なんでもいいので、触れる確率・回数を増やしてあげてほしいです。
僕は、たまたま、Minecraftがベクトルとしてめちゃくちゃ合っていました。Minecraftを通じて、空間認識能力や論理的思考、創造力等のスキルも身に付きました。
Minecraftで培った「論理的思考」は、その他プログラミングの場面でも活きています。また、CPU(コンピュータ内の回路制御やデータの演算などを行う装置)の処理部分の根本を学習する時も参考になりました。
それだけでなく、仲間ができたり、Minecraftカップに出たことでの気づきや成長があったり、本当に色んな事がありました。
「Minecraft から全てを得た」「Minecraftが無かったら今の自分は成り立っていない」と思っているくらいです。
でも、Minecraftでなくても良いと思うんです。例えば、今、僕の弟は、ゲーム「ゼルダの伝説」にはまっています。ゼルダの伝説には物理エンジンが入っているので、このゲームから、物理エンジンに興味を持つ子もいるんじゃないかと思います。
好きな気持ちは、色々なベクトルの形に変換され、紡がれていきます。これをやりなさいと強制するのではなく、興味があるかもしれないことにどんどん触れさせ、試行回数を増やし確率をあげるのが良いと思います。
水野「色んなことに触れていく中で、好きが見つかる」ということですね。
秋穂:はい。我が家は時間制限はありましたが、Minecraftで遊ぶこと自体は否定されず、両親から温かく見守ってもらいました。見守ってくれた両親にとても感謝しています!
【編集後記】Minecraftをもっと極めたいという気持ちが、後に、プログラミングやデジタル分野の学びにつながっていった秋穂さん。
後編では、未来の目標である「プログラミングやAIの開発で、世界をより良くしていきたい」や、理想の未来「デジタルによって格差が無くなっていく世界」について伺っていきます。
また、消費する側だけでなく生産者側にまわる意識を持つこと、AIを魔法のように思わず仕組みを理解する必要性など、AI開発が加速する中で、私たちにこれから必要なスキル・心構えなども提言いただきました!
ぜひ後編もご覧ください。
◆秋穂さんへのインタビュー後編は、こちら
◆「未来へつながる仕事-Minecraftを通じて教育の変化を生み出していく(前編)」は、こちら