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ジョブクラフティングと経験学習をベースとしたトレーニー育成プログラム 両備システムズ様の事例【前編】 

連載記事

2021.12.17


これからのキャリア開発に大切な「ジョブクラフティング」 連載第5回目。
今回は、ジョブクラフティングと経験学習をベースとしたトレーニー育成プログラムを2019年から導入し、効果をあげている株式会社両備システムズ様の取組みをご紹介します。
両備システムズ様では、3年間の新人教育(=トレーニー育成プログラム)のストーリーラインを描き、一つひとつの施策を連携させながら効果を高めていく取組みをされています。弊社のジョブクラフティング研修もこのトレーニー育成プログラムの総仕上げ、そして次の自律ステージへの出発点として位置づけられています。
このトレーニー育成プログラムの背景、具体策、効果、今後の展望について
株式会社両備システムズ 人財戦略部 リーダー 三上紀子様にお話を伺いました。
【目次】  ※青の目次をクリックすると各段落にジャンプします
1,新人教育を「トレーニー育成プログラム」として展開した背景
●旧OJT制度の形骸化
●新入社員をチームで育てる「トレーニー育成プログラム」
●これからのOJTは「先輩が経験したことを伝えて育成する」モデルだけでは持たない

2,トレーニー育成プログラム 概要
●トレーニー育成プログラムの具体的内容
【株式会社両備システムズ様 会社概要】
本社所在地:岡山県岡山市南区豊成二丁目7番16号
代表者  :代表取締役社長 松田 敏之
設立   :1969年12月
資本金  :3億円
事業内容 :公共、医療、社会保障分野および民間企業向け情報サービスの提供
(システム構築、アウトソーシング事業)、ソフトウェア開発、
データセンター事業、ネットワーク構築サービス、セキュリティ事業、
ハードウェア販売および保守サービス
コーポレートサイトhttps://www.ryobi.co.jp

1,新人教育を「トレーニー育成プログラム」として展開した背景

●旧OJT制度の形骸化
秋本:御社が新人教育をトレーニー育成プログラムとして展開しようとされた背景や理由を教えていただけますか?
三上様:現在の「トレーニー育成プログラム」は、2019年に立ち上げたものです。
旧制度は「トレーナー制度」という、新入社員と入社7~8年目の年の近い先輩が、二人一組で一緒にOJTをしていくものでした。しかし、その制度は形骸化してきていました。というのも、運用がOJTトレーナー任せになってしまっていたからです。OJTの先輩社員は、自分に判断裁量がないため、自分の知っている範囲のことを教えることに留まっていました。また、正解がない仕事が年々増えている状況で、「過去の先輩たちが歩んできた学び方や経験値だけで教えるのでは、若手・部下がついていけなくなる」という意見もあり、制度の見直しを検討していました。
●新入社員をチームで育てる「トレーニー育成プログラム」
三上様:弊社の新入社員育成の大きなテーマは、「困難な環境でも、自ら動いて経験から学び取る力、学び成長する力を継続して育成していくこと」。そのため、新しい育成プログラムには、「経験学習(※)」の考え方を取り入れました。
※経験学習:自分が実際に経験した事柄から学びを得ること。 単に経験するだけでなく、経験を次に活かすためのプロセスが重要であるとされている。デイビット・コルブにより、そのプロセスを理論化した「経験学習モデル」が提唱されている
また、新しい育成プログラムを考える際、日本マンパワーさんの新入社員意識調査の結果も参考にしました。過去5年間の調査結果を比較したところ、弊社の新入社員には次のような特徴が見られました。
①「今の会社をどう感じているか」という設問で、「自分が成長できる会社だ」という回答が年々増えている
--→この結果を受け、新入社員にこの会社で成長してほしいという思いがより強まりました。
②「働くうえで大事にしたいもの」という設問で、「自分の望む生き方ができること」という回答が年々増えている
--→この結果を受け、今までのような「先輩が敷いてきたレールの通りに歩んでいきなさい」という育て方はもう古く、これからは「新入社員が自分の足で自分のやりたいことをやりながらも会社の成長に貢献できるよう、上司や先輩がフォローしていく」育て方も必要だと感じました。
このような傾向を踏まえ、先輩一人だけではなく、複数の社員が色々な方向性から新入社員にかかわるのが良いのではと考え、「トレーニー育成プログラム」では、新入社員であるトレーニー、入社4-7年目社員のトレーナー、感情面のケアをするメンター、育成責任者の4名1チームとしました。新入社員を「チームで育てよう」という発想です。
「トレーニー育成プログラム」の活動期間は3年。入社して2年9ヶ月後、いわゆる入社3年目の1月に初めての昇格があるので、そのタイミングに独り立ちをしてもらえたらという狙いで設定しました。
●これからのOJTは「先輩が経験したことを伝えて育成する」モデルだけでは持たない
秋本:新入社員に対して社員3名がつき、活動期間3年というのは、非常に手厚いサポートですね。先ほど、「過去の先輩たちが歩んできた学び方や経験値だけで教えるのでは若手・部下がついていけなくなる」というお話がありましたが、御社がIT業界ということも影響しているのでしょうか。
三上様:私たちの業界は本当に変化のスピードが速く、かつ競合他社が多数あり、その中で勝ち残っていくには遅れを取ってはならないと強く感じています。
秋本:他の業界では、シニア社員からの技能伝承がよく言われますが、IT業界は必ずしもそうではないですよね。
三上様:AIなど、ミドルシニア世代の上司より、部下の方が詳しい技術もたくさんあります。
そのため、これからのOJTは「先輩が全てわかっていること、経験したことを伝えて育成する」モデルだけでは持たないと思います。環境変化の激しい時代になってきたので、自分で考えて決めて動かないといけない、誰も正解を知らない世の中になりつつあると感じています。

2,トレーニー育成プログラム 概要

●トレーニー育成プログラムの具体的内容
秋本:それでは、トレーニー育成プログラムについて具体的な中身を教えていただけますか。
三上様「チームぐるみで、育てる」というのが大きなポイントです。具体的には二つあり、一つは様々な立場の人、つまり権限を持った人や、歳の近い相談しやすい人が様々なアプローチを行えるようにチームという形を取りました。
もう一つは、経験学習サイクルを回す上で、1人で考えてやるのは、初めは難しくて、目標設定にしてもちょっとストレッチさせるといった目標に設定しなければ、突破力が身につかないと考えています。つまり、何か振り返りをするにも自分だけでは限界があり、視点にも個々人の癖がありますので、多角的に振り返れるようにしました。
トレーニー育成プログラムは、チームメンバー全員を集めた説明会からスタートします。
毎年、新入社員が入社して6月まで新人研修があり、各職場に配属後トレーニー育成プログラムのチームが構成されます。そのため、7月~8月にかけて、説明会を2時間程度実施します。説明会は、目的や各メンバーの役割を説明した後、チームメンバーが今後の進め方を考えていただく構成にしています。彼らには「なぜこれをやるのか」を、確実に捉えてもらった上で、活動してもらうとことにこだわっています。
もう一つのこだわりがツール類ですね。GROWシートというツールを全員に配布し、どの順番でプログラムを進めるのか説明しています。ただその際に「この通りにやらなくて良いですよ」、つまり「あくまで一つのパターンであり、ご自身のチームの状況によって運用してください」と伝えています。例えば、話し合う頻度も月に1回を推奨していますが、それも頻度を増やすでもいいですし、頻度を減らすのもいいと伝えています。名称を「トレーニー育成プログラム」としているのは、「自分たちでそのプログラムを作っていってくださいね。柔軟性を持たせてくださいね」という狙いがあり、「制度という硬い言葉にはしていません」と説明会でもお話ししています。
※上記GROWシートは、2021年11月時点のものです
秋本:いいですね。プログラムという言葉に「自分たちで作ってくださいね」という思いが込められているんですね。やらされ感ではなく、自分たちで決めながらやっていく運用だから、メンバーに納得感が芽生え、動きやすい仕組みになっているんですね。
三上様GROWシートを設計する上で納得感や柔軟性を意識した背景は、「いろんな研修の中でいろんな目標設定をさせられる」というアンケートの声が多かったからです。
例えば業績計画で1年の計画を立てて、キャリアセミナーでキャリアの目標を立てる。この2つのことを連動させて考えられる社員もいるのですが、全員がそうではない状況がありました。ただ一つ軸として大切にしているのは、「会社で働く自分に対して、目標を設定する」という基準があるので、業績計画で立てた計画と連動するように、いろいろな目標設定をできるように、例えば「業績計画を見ながらキャリアの目標を書いてくださいね」とガイドすることを心がけています。
また振り返り会というイベントを年に1回、実施しています。その会は「活動が波に乗ってます」という反応を確認したり、「キックオフで詰まってます」というチームがあれば立て直すことを狙いとしています。
1年目の12月の振り返り会では、「うまくいってるチーム」よりも、「ちょっとうまくいかないなど悩んでいるチーム」が多いです。新入社員も探り探りの状態でプログラムがスタートし半年も経ってないので、ある意味、「集まる機会が嬉しい」という言葉を多くもらいます。チームメンバーがそれぞれ忙しく、集まる機会が取りづらいからこそ、強制的に集まるのがいいという面もあります。
その先で、初めて新入社員は業績計画書を作成します。初めて計画を立てるときに、GROWシートで立てた目標も参考にしながら、次の1年間の計画を立てる流れを踏んでいます。
彼らは初めて業績計画を立て、そこから約1年間 活動していくのですが、そのサイクルが終わるときに振り返り会というイベントをやります。そこで見えてくるのは、2年目になると少しずつ任せてもらえる仕事が増える時期であるので、1年目は手取り足取りメンバーが関与しなければならなかった状況から少し変化するところです。自走し始めると言い換えてもよいかもしれません。
またチームメンバー同士で「入社3年目に向けてどのくらいの頻度でどのように活動するのか」を考えてもらいます。チームによっては「活動の頻度を減らす」、「GROWシートの中で、この項目をピックアップして書く」、「早期にプログラムを終了させる」など様々です。新入社員は成長のスピードが各自違いますし、関わり方もそれぞれなので、「新入社員に合ったやり方で決めてください」という方向性や進め方を示しています。
秋本:「もう終了させてもいい」など、かなり柔軟性がありますね。状況に合わせてということですね。
三上様:このような活動は人事が主体で、現場が受け身となる構図になりやすいので、「本人たちが主体となること」にこだわっていますね。最初の説明会では、どちらかというとやらされ感的な言葉もありますが、2年目の振り返り会では、トレーニー育成プログラムを意識せずともOJTを実施できていたり、チームメンバーがトレーニーの成長を感じ始めていたりするなど、良い感触になります。
■後編は、こちら
※後編では、トレーニー育成プログラムの中から、①GROWシートの1番目、コロナ禍で関係を深めるのに役立っている「情報シート」や、②入社3年目の総仕上げ ジョブクラフティング研修、トレーニー育成プログラムの効果などについてお話を伺っていきます。

■過去のジョブクラフティングに関する記事
【第1回】ジョブクラフティングが企業で求められる背景とは?
 こちら
【第2回】具体的な方法と日本マンパワーのジョブクラフティング研修~ こちら
【第3回】ジョブクラフティングを活用した効果的1on1ミーティングの進め方 こちら
【第4回】これからのキャリア開発に大切な「ジョブクラフティング」~千葉興業銀行様での導入事例~こちら
☆ジョブクラフティング研修 カリキュラム例等の資料
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